7月 少年の志、少女の心意気
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「明日から文化祭だな!お前はクラス発表何すんの?」

高校最後の文化祭の前日の帰り道。
部活を終えた俺たちにとって、受験を前にしてはっちゃけられる最後のイベントである。

「えー・・・だん・・・すを少々・・・」

「お前がダンス!?」

「うっさい!」

真穂がなんだか照れながら言うので、ついいじくってしまった。

まあ、ダンスあたりが手堅いよな。
言ったら俺もダンスなんだけど。
そんなこと言ったら、真穂にふざけんなとか言われるし。
別にいいだろが。

ていうか見たい。
真穂のダンス。
あの真穂が!踊るんだぞあの真穂が!!!!
実は唯我独尊、鬼畜と般若の顔を持つ真穂が!!!
想像するだけで・・・・・
ちょっ、笑いとまんねえから。

「ねえ、さっきからなににやにやしてるんですか?気色悪い」

真穂が訝しげに俺を見つめる。
般若が・・・・こちらを見ている気がした。

*****

あああああ・・・無理。

私は鏡と向きあい、ため息をつく。

文化祭クラス発表直前・・・というか衣装替えの時間。
女子8人、協力して仕立てなんかをやってくれたんだけど・・・・・
化粧もしっかりしてくれんだけど・・・・・

「やっぱ私には向いてないっっっ!」

「真ー穂、にげんな!お前は絶対こういう衣装にあってると思ってたんだよね~」

「みずかああ~!お前のコスプレと一緒にすんなまじで!」

「ええ~?シキもいいと思うよ~」

「おい!志季!!そういう喋り方まじやめろ!!」

8人の中でも、私がよくつるんでる友人、ヲタクの水香とギャルでアホの子志季が口を挟む。

「まあ、いいじゃない!むしろこれだと普段の真穂から想像できなくてわかんないって!」

「そーだよ~たまにはこういう格好もいいじゃ~ん、真穂」

・・・・・・・。
だからって、だからって・・・この服は。
もうどうにでもなれってか!?

*****

「なあなあ、拓海~、真穂ちゃんの出番次じゃね?」

「言うたら聡もいるぞ」

文化祭、クラス発表。
蒸し暑い体育館の中で、アツい発表が行われている。
俺達のクラスの発表は最後なので、まだ余裕があったりする。
次はとうとう真穂のクラスだ。

ていうか、昨日あいつにどんなことをやるのか根堀葉堀で聞いてみたけど、
結局教えてくれなかった。
めっちゃ気になるじゃねーかよ。

室内が暗くなり、ちょっとポップな曲が流れてきた。
ステージに7組の女子8人が出てくる。

まーほー、筋肉だるまのまーほー、俺と体重一緒のまーほー。
どっこですかー?

「ちょっ!!!!これは!!!!!」

「メ イ ド ですか!?」

ええ、いました。俺の妹。
しかもセンターで。メ イ ド で。
筋肉質で無駄がない体にメイド。
俺は笑いをこらえるのに必死だった。

真穂さえいなきゃ、俺だってわーわー言ってたに違いない。
しかし真穂が、真穂が・・・・・
まあ、体型隠れてるし、肉親としてはありがたい。
しっかしまあ、よくめかしこんでるよな。
これを見ると女だなーと思ってみたりする。

「拓海、真穂ちゃんかわいすぎじゃね?」

「ぷっ・・・、あ~馬子にも、衣装だな。」

いや、ごめん。
俺肉親ヴィジョンだから笑いこらえるの必死。
ラインダンスもよく見れねえ。

ああああ、笑いすぎて腹いてえよ。
腹筋崩壊するっ!!!

みんながわーわー言ってる中、
俺は笑いすぎてひーひー言っていた。

ぶっちゃけちょっと顰蹙を買ってしまったのはいうまでもねえんだけど。

*****

「おい、まーほー、何拗ねてるんだよー」
 

拓海が2歩下がった位置からついてくる。
 

文化祭2日目の一般公開日。
様々なお店や展覧会、イベント、発表等々がある中、
私たちは少し距離を置いて歩いていた。
いまやこのような公の場にも2人きりで歩けるようになった。
ていうか、寧ろ学校一の仲よし兄弟として、私たちの関係は周りに認知されている。
 

「自分の胸によーく聞いてみてください。お兄さん。」
 

昨日の発表の後、拓海は私を見て笑う、笑う、笑う。
家に帰っても笑いがおさまらず、メイド姿を撮った写真を見て大笑い。
私だってすごーく恥ずかしかったのに・・・・
 

一回死んできてください。

いくらなんでも、そこまで笑われたら私だってキレます。
ブチギレましたわ。
 

「ねえねえ、それより私と一緒に回ってていいわけ?」
 

そうだ、と言わんばかりに私は話題を変えた。
拓海にだって一緒に回りたい女の子ぐらいいるだろーに。
 

「別にー。聡はどっかいったし、明子ちゃんと順平はずーっと一緒だし」
 

「カノジョとか好きな人とかあるじゃない、そーいうのは?」
 

「いねーからこうしてお前といるんだよ。ニブイ!てか、お前はどーなのよ?」
 

「水香も志季もファッションショーで一日中忙しいんだって」
 

ヲタクとギャル・・・。二人の「ファッション」の方向性は全く持って違うけどね。
 

今まで気にしたこともなかったけど、拓海に彼女がいないことが意外だった。
外面はそこまで悪くないのに。
ああ、でも確かにこの性格じゃ女の子も振り向かないな。
なにより、性格が悪い。
すぐ見た子見た子に「ない」「無理」って言うし。
そんなお前自体無理だろって話。
 

「じゃーどっか回る?」
 

「そうこなくっちゃ、妹よ!」
 

拓海は指をパチンと鳴らし、にやっと笑った。
この笑い方を見ると、ああ、私たちって兄弟だなーって思ったりする。

*****

てくてくてく。

お互いにツッコミとボケを繰り返しながら、学校を回る。
 

ときどきお互いの知り合いにあっては、
『お似合いだね、ご兄弟』とか言われて、苦笑い。
 

「ねー、拓海。」
 

「なに?」
 

「アイス食べたい!買って!」
 

おまえ!兄に向って命令口調とはなんだよ!
 

「買って!ってなんだよ。命令すんな」
 

「買ってーお兄ちゃん」
 

甘えればいいってもんじゃない!しかも『お兄ちゃん』とか何をほざくか。
心にもないことを言いやがって・・・・。

「ダメ?」
 

小首を傾げて、口を尖がらせて聞いてくる真穂に俺は折れてしまい、チョコレートアイスを買ってやった。
こいつ、普段はまったく色気もへったくれもないのに、変な時に『女』を見せてくるからやりにくい。
 

「やったー!ありがと、拓海」
 

「別にいいですよ、兄ちゃんだからな」
 

ふふん♪とご機嫌になった真穂。
そうそう、こいつのご機嫌をとるには甘いものが一番だったりする。
伊達に3カ月一緒に生活はしていない。
お互いにお互いのコントロール方法を知ってる。
 

「じゃあ私も拓海になんかおごるよ、何がいい?」
 

アイスをぺろぺろ舐めながら真穂が俺に聞いた。
 

こいつ、妙に義理固いときがある。
別にいいっつーの。
それよりもアイスを舐める様子のほうが俺はまずい。
いや、当たり前なんだけど、だけど、いや・・・なんでもねえ。
 

「なにがいいって聞いてるんですけど?」
 

真穂が般若になりながら聞いてきたので、とりあえずコーヒーを頼んでおいた。

*****

「ひいいいいいいっ!!」
 

「っだああ、抱きつくな真穂!俺がびっくりするから!!」
 

クーラーが効いている部屋に行きたいといううちの妹のリクエストにより、
お化け屋敷に入ることになった。
ていうかお前そういうのだめじゃなかったっけ?
怖い<クーラーか・・・・。
俺には到底理解できねえな、末恐ろしい。
 

そういえば、俺が家でホラーゲームやってるときも怖いくせに見にくるんだよな。
どうして?って聞いたら、
『ゲームやってるところを見るのは好きだから』
とか訳のわからん答えが返ってきた。
ゾンビが壁破って出てくるシーンもめちゃめちゃ怖がってたのに、何が楽しいんだか。
 

「っ・・・・・・・。」
 

真穂は俺を掴んで離さない。
ったく、めんどくさい妹。
これくらいのお化け屋敷なんぞで怖がってどーすんだよ。
 

「ほれ!一気に強行突破するから、目え瞑ってろ!」

俺は真穂の手を掴み、ダッシュでお化け屋敷を抜ける手段に出た。
真穂は、目を本当にしっかりと瞑っていた。
またこういうところで『女』を出してくる。
もう、頼むからさ・・・・・
 

外に出ると、むっとした空気が俺たちを包んだ。
 

「ああーこわかった!」
 

いつの間にか真穂は俺の元を離れ、先に歩きだしていた。
 

「おいっ!お前さっき散々怖がってただろー!待て!待てって!」
 

真穂、お前は謎の生命体だ・・・・・。
俺はそう確信した。
 

*****

夕暮れ時。
そろそろ文化祭も終了の時間である。
 

「おー兄弟!楽しくやってんじゃん!!」
 

どこかで聞いた声だと思ったら・・・・
 

「順平君!」
 

とプラス明子。
いいもん見たぜ~と言わんばかりに、2人ともにやにやしている。
似たもの同士過ぎて困るよなあ。
 

「真穂ちゃーん、昨日はすげーレアな姿、ごちそうさま!」
 

「超~可愛かったっすよ!!!」
 

ああーもう、だからそこにはあんまり触れないでほしいわけで・・・・・。
顔が真っ赤になるような気がした。
昨日のあれはもう封印したい。
 

「拓海ぃ~、おまえらはたから見たらまじカップルだぞ?」
 

「言わせたいやつには言わせておけば?ほんとは兄弟なんだし」
 

まあー、傍からみればそう見える・・・・かもしれないけど、
大事なのは私たち同士な訳で。
別に周りからどう見えようが関係ない。
いちいち状況説明するの自体、面倒だし。
 

「真穂ちゃんはいいの?」
 

「んー、まあ別にいいんじゃない?変な人と勘違いされるなら、私は拓海がいい!」
 

皆がばばっ!とこっちを振り向く。
え?私なんか変なこと言った?
 

「真穂さん、ド・ストレート」
 

「なんかそのセリフ、愛を感じるねえ~」
 

「へっ?ちょ、ちょっと、どういうこと?」
 

「まあまあまあ」
 

そのあと、少し雑談したら、順平・明子は去っていってしまった。
なんだよ、あの嵐のようは賑やかさ。
 

「真穂、帰るぞ」
 

なんだか少し怒った様子で拓海が言った。
時計の時刻は6時を指している。
 

「そうだね、うちに帰ろっか」
 

*****

帰り道。なんだかいつもより会話が少ない。
拓海の顔も仏調面。さっきの順平たちとの会話から様子が変だ。
 

「ねえ、拓海。なに怒ってんの?」
 

「怒ってません」
 

「じゃーなんなのよ?」
 

「なんでもないです」
 

「じゃーなんでずーっと黙ったまんまなの?」
 

「・・・・・・・」
 

ぶーぶー私は口を尖らせた。
もう、何考えてるのか全然読めないし。
拓海のばか。
 

*****

真穂がぶーぶー言ってるのを横目に、俺はただただ帰路を辿っていた。
 

『私は拓海のほうがいい!』
 

またかよ。
また『女』をみせやがった。
あいつの『女』は予想もつかないところで出てくるから困るんだ。
 

頼む、妹よ。
変なことを皆の前で言わないでくれ。

俺は本気で照れちまうぞ!!

*****

サブキャラ解説 

吉田水香 身長160cmくらい 美人 きれいなサラツヤストレート モデルみたいな人 でも超オタク。

ゲーム大好き、コスプレ大好き、アニメ大好き 

南 志季 身長150cm後半 目の周りが真っ黒なギャル 金髪パーマ 真っすぐでいい奴

ちょっとアフォの子です。真っすぐすぎるため。 色黒

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