4月 少女の非日常、少年の日常
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「えーっと、すいません。あの、もう一回言ってもらえませんか?」

私の名前は上坂真穂。
引退間際の部活に燃えている、至って普通の高校三年生。

そんな私だが、今猛烈に混乱している。
その混乱の原因が、私の目の前にいるおとこのこ、高田拓海だ。

「だからいってんじゃん、俺とお前、腹違いの兄弟だって。」

いや、普通そんなこと突然言われて信じられる人いないでしょうが。
なんだその罰ゲームは。
私は心の中で毒づく。

「あの、すいません、冗談ですよね?」

「いや、思いっきり真面目な話なんすけど……」

「じゃあ、何か証拠でもあるんですか?」

私がそう切り出すと、相手は携帯を取り出して、おもむろに電話を始める。
あの、全く先が読めないんですけど。
私結構暇だけどもう帰りたいなー
なんて思っているうちに、相手の電話が繋がったようだ。

「もしもし?親父?俺、俺だよ、拓海。例の件、やっぱダメみたいだから、直接説得してくんない?ん、わりーね」

相手が私に電話を向ける。
えー、とりあえず話せってこと?
誰だよ……
私は恐る恐る電話を受け取り、口を開いた。

「もしも……」
 

「ま・ほー!お父さんだよー!」

電話の相手は紛れもなく私の父、上坂浩司だった。
………まじすか?

「拓海の話、やっぱ信じらんないみたいだから、俺からも話すね。二人共俺の子どもだよ。母親は違うけどね。」

ちょいと突然すぎやしませんか?
私の頭にそんな思いが過ぎったが、この際事実確認を優先せねば。

「ええっと、要は、この話はほんっっっっとにほんとってことでいいんすね?」

あまりにも動揺しすぎて、実の父親に対しても敬語になっている。
しかしそれどころではない。
落ち着け、平静を装うんだ私!

「そういうこと!ちなみに今日からうちで引き取るからよろしくねー」

「……え!?ちょ、おまっ!!」

いつの間にか電話は切れていた。
えーと、つまりこういうことですね。

①私に異母兄弟がいた
②その異母兄弟と今日から一緒に生活
③私の普通で素敵な高校生活とはさよなら

…………無理っ!!!

*****

なにこの無茶な展開。

先程の堂々たる異母兄弟宣言から早三時間。
父の仕事も終わり、現在親子三人によるファミレス会議が始まろうとしている。
勿論、議長は父だ。

「さて、いっちょおっぱじめるか!」

とりあえずおっぱじめるとかそうこう言う前に、状況説明してほしいんですけど。
本当にこの人が実の父親かと思うと、たまに切ない気持ちになる。
まあ、このお気楽さこそ私の父の長所でもあるからいいけど。

「よーし親父!始めようぜ!」

しかし彼らのポジティブさにはついて行けない。
……泣きたい、泣いていいですか神様?
そんな私の心の涙は無視され話は進む。

「まず設定からな!拓海は俺の友人の子どもってことで、父親は既に他界、母親は重度の体調不良のため入院中。だから暫く俺の所で預かるってことでどうだ?」

「完璧だぜ親父。な、真穂!」

拓海さんはいきなり私を呼び捨てで呼んだ。
馴れ馴れしいなあ。
でも疲れて反論するのもめんどくさいからいいや。

「分かったから、次進めてくれる?」

私は先を促した。

「じゃあ次いくぜ!お前ら学校ではどうするつもり?」

「仲良く兄弟しよーぜ、真穂」

「無理」

私は光の速さでツッコミを入れた。
そもそも私と高田拓海との関係なんて、バレーボール部の部員同士なだけだ。
今回までまともに口さえ聞いたことがない。
他人というか顔見知り。それくらい薄い関係だったのだ。
それをいきなり兄弟仲良くしようと言われても無理。
これ普通の反応ですよね?
周りもびっくりしますよね?
私はその旨を伝えた。

「確かに!これみんなに話した時はびっくりされたわ」

「そんなの当たり前でしょうよ……ってちょっと待て」

ちょっと拓海さん、今何と仰ったのでしょうか?
私の耳が確かならば、みんなに話したと言ったよね!?
過去形で言い切りましたよね?!
私はとってもいやな予感がした。

「……誰に言った?拓海さん?」

私の只ならぬ雰囲気を感じたのか、拓海さんは素直にこう答えた。

「……男バレのタメの部員です」
 

「…いつ?」

「…一週間前」

「…なんで?」

「………俺、仲間には嘘つけなくてさ」

そう言って拓海さんが明後日の方向を向くと、なぜか周りの雰囲気が暗くなる。
え?私のせいですか?
なんか私が悪者みたいなんですけど?

それよりなによりいろいろ終わった。
私の普通の高校生活。

*****

ある日の朝。
 

「真穂っ!おせーぞ!俺先にいくからな」

「知るか!とっとと行け!」

拓海さんがうちに引き取られて早一週間。
彼はすっかりうちに順応していた。
あり得なくないですか?ほんとに。
最近はこんな事にツッこむことをあきらめはじめていますが。
もういろいろ何かを悟ってしまったよ、私。
 

何が変わったって言ったらいろいろ変わった。
まず、アベック部が故、登下校を共にすることが多くなった。
昼、事情を知る男バレ集団と意気投合。飯を共にすることが多くなった。
拓海さんを呼び捨てで呼ぶようになった。
……なんか端から見たら完全に勘違いされる気もする。
だけどいろいろ考えるのもかなりめんどくさいので、私の思考は流されるままだ。

そんなことを考えながら玄関を開けると、拓海が笑顔で私を待っていた。

「遅いぞ、真穂」

「悪い、もたついた」

私もニヤっと笑みを返す。

実の所、私の日常はそこまで変わらずに送ることが出来ている気がする。
拓海が来てもそこまで変わったもんじゃない。
兄弟が一人増えただけってもんだ。
だから、こんな毎日も悪くない。と思えるようになってきた。
私は少し遅れて自転車のペダルを漕いだ。

「拓海!待てぇ!置いてくな!」
 

今日も朝日が眩しい。





 

*****

<あとがき>
 

そんなわけで早速書き始めました。

「おんなのこ・おとこのこ」

そんなんあり得るか!と言うB級映画のノリを、シュールなコメディタッチで書いていきます。

よろしくねヽ(´ー`)ノ


 
そしてプロフィール

上坂真穂
高三 身長160cm後半くらい
ショートカット(パーマっぽい癖毛)
筋肉質でがっちり

高校の時にクラスにひとりはいませんでしたか?
部活に燃えている男前な女子。
そんなイメージです。
結構唯我独尊。


高田拓海
高三 身長170cm半ばくらい
男子としては長い髪で癖毛
ひょろひょろ

こちらは部活好きなんだけど、他にも好きなものがあるから、そんなに頑張っていない男子をイメージしてます。
真穂よりおしゃれを気にしてそう笑 

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