5月 少年の勇気、少女の憂鬱
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部活が男女ともにオフの日曜。
上坂家に身を寄せるようになってから3週間。
俺はなんとなくこの家に馴染んでいた。

はじめは俺を引き取ることに難色を示していたママさんー上坂京子も、
今ではすっかり俺と冗談を交わすようになった。
だけど、もし俺が親父の腹違いの子だって分かったら、
この人の笑顔を奪ってしまうんだろうな。
そのことを思うと、なんだかしんみりする。

真穂の妹、恵美ちゃんはまだあんま話してくれない。
あ?それはもしや俺がカッコいいから!?
フラグ立ってる!!?
・・・・ってねーか。

と、俺の携帯から着信音。
ウインドウには上坂真穂の文字。
急いでメールの内容を確認する。

『拓海、父さんから伝言。本日午後1時より第二回裏家族会議を執り行う。別々に集合、いつものファミレスにて。参加するようにだって。』

へーへー、了解。
俺はメールを即レスする。
家の中で真穂と付きっきりになるのもなんだか不健全らしいので、
俺たちの家でのコミュニケーションは基本的にメールだ。
腹違いの兄弟なのに、なんだかめんどくさい関係だよな。
もっと血縁者として堂々としたいのにさ。
親父命令だもんな、仕方ねえ。

こうやって裏家族3人で出かけるのにもタイムラグをつくらなくちゃいけない。
めんどくせー。

でもこういうガキの言い分なんて大人の世界では通らないって相場は決まってる。

特に俺らの親は関係がすげーシビアだ。
そんな親の間に生まれてどうとかこうとかってのは中学で卒業したけど、
こうやって実の親父とかりそめでも一緒に暮らすことができたことや、
腹違いだけど兄弟がいたこと。
ずっとお袋と2人で暮らして、寂しかった俺にとっては嬉しかった。
だからこそ真穂の存在もすんなり受け入れることができた。

さーて、出発の準備でもしようかね。
真穂と親父は一緒に出ても違和感がないから、俺が早めにタイムラグを作って出発しなきゃいけない。

「ママさん、俺ちょっと出かけてきます!」

「あら、そう?気をつけてね」

ママさんは笑顔で俺に手を振った。
俺のお袋となんだか残像が被る。

ちょっとまたせつなくなった。

*****

「あ。私オレンジジュース!」


「俺はコーヒー」


「ちょ!拓海、おまえそんな大人な飲料なんぞやめなさい!!真穂みたいにオレンジジュースにしなさい!」

上坂家裏会議at近所のファミレス。
そんなこんなでとりあえず始まった。
相変わらず親父が熱すぎてウザいけど・・・・
まあ、いつものことなんで基本放置で。

「で、親父。今日の議題は?」

俺は親父に確認を取る。

「おお、そうだったそうだった。お前の母さんのことだ。」

俺はどきっとした。
俺のお袋、高田菜穂子は現在病気のため入院中。
ぶっちゃけ、病名不明で検査中らしい。
「らしい」っていうのは、お袋の入院関係は全部親父がやってくれたからだ。
まだ高校生の俺には保険だとかどうとかこうとかっていう難しいことは分からないし、
「健全なる高校生なら、1に勉強、2に部活、34がなくて、5がいろんなことだ!!!」
っていう親父の弁で、俺はお袋の状態を親父から聞いていた。
まーもちろん見舞いなんかにも行ってたんだけど。
いかんせん最近忙しかったし。
というわけで、俺はお袋の状態をよく知らなかった。

「お袋、どうしたんだ?」

「本来なら、あと1週間で退院できるところだったそうだが、いろいろ見つかったらしくて、少なくとも3カ月は入院だそうだ。」

「えー!???」

俺と真穂が同時に素っ頓狂な声を出して、周りの客に睨まれる。
親父がしーっと指を立てた。
・・・・小学生か俺らは。

「まじ!?お袋大丈夫かよ。」

「ま、心配するこっちゃないが、お前の居候期間が三カ月延長になったことだけは間違いない。」

真穂が隣で項垂れるのを見た。
 

そんなに落ち込むのを見ると、俺まで落ち込むんですけど。

*****

私、とりあえずこの際だから聞きたいことがあった。
もう、勢いで聞いてしまえ!

「ねー、父さん、今更ながら確認したいことがあるんだけど?」

父は「なんだ?」と短く答える。

「父さんと母さんと・・・それと拓海のお母さん。ここら辺の関係をそろそろ教えてほしい。
 

「・・・・・それ。聞いちゃう?結構ハードよ?」

少し困った顔をして父が私に確認を取る。
私は大丈夫だから、ていうかむしろ気になって知りたくてしょうがなかったんだから。
ご心配無用です。そこらへんの無神経さはあなたの遺伝です。

「うーん、そうだね。とりあえず3人の関係としては、俺と京子が大学時代の同期。で菜穂子が俺の後輩で元彼女。」

「モテモテじゃないですか、親父殿」

拓海が茶化しに入った。
ほんとだよ、父上様・・・
まあ、このノリの性格と、割と端正だったであろう顔立ちなら、そこまで女性には困らなかっただろう。
・・・・・でも軽くね?私だったら絶対に無理。こういうタイプ。

「それで、大学卒業2年後に俺と京子が結婚したんだが、菜穂子は知らなかったらしいんだ。」

「それなんて昼ドラのお決まりのフラグ?」

「結婚して1年後に菜穂子が俺とばったり会って・・・で、忘れられないから最後に抱いてくれ、と。」

「そこでできたのが俺だな?ちゅーかほんとに昼ドラじゃねーか。」

「そういうこった。ついでに菜穂子を抱いた次の日に、京子が妊娠したことが分かった。」

私たちの誕生日が10日しか違わないのは、そういう理由だったのね。
なんとなく察してたけど、まあ、なんだ。そんなもんだな。現実は。

「俺も男だから責任を感じて、今まで菜穂子の養育費に関しては世話をし続けた。ただ、一人で育てるから、父親の存在はないことにしたいってことで合意したんだ。」

「まあ、それが一番平和だわな。俺もそれがベストだと思うぜ。」

「だろ?拓海はさすがだな。やっぱり俺の子!」

「はいはい、わかったから、先進めてくれる?おとーさん?」

「・・・・・。んでもって、拓海も真穂も順調に成長していったんだが、毎月定額で出てる金に京子が不信感を抱いてだな・・・・ぶっちゃけバレた。お前らが2歳の時」

「はあああああ!!!??」

私と拓海は力の限り叫んでしまった。
お陰様でまたお客たちににらまれる羽目になったのは言うまでもない。
ていうかむしろ離婚の危機だったんですねわかります。
じゃあ、じゃあ・・・・

「俺?もしかして、ママさんに例の子どもだってばれてる?」

拓海が私を同じことを思ったらしく、質問をした。

「・・・グレーだな。一応そうではないということになっている、が。カンのいいやつだからなー薄々感じているかもしれん」

「ママさん・・・・。」

「まあ、ばれた時はばれた時だ。俺の責任だから心配するな。なんとかする。

で、話を戻すが、お前の存在がバレた途端、『私と同じ苦しみを味わいなさい』っていって、あいつも元彼氏の子どもを妊娠してきた。」

「はいーーーーっ!!??」

三度、私たちは絶叫した。
店員さんもそろそろ私たちをマークしたに違いない。
それはもしかしてまさか・・・・

「それが真穂の妹、恵美だ」

もう私は出す言葉もなかった。なんか壮絶過ぎるでしょうに。
というか、うちの親は・・・・・もう少し節操ってものをですね・・・・
と、私は老婆心を思いっきり出したくなった。
まあ、父さんと母さん、夫婦にしては妙によそよそしいって思ってたし、いろいろ納得できる節はある。
だけど、恵美が微妙な血のつながりだったとは・・・・
確かにあんまり似てないけど。

まとめると、父と母の子が私。父と菜穂子さんの子が拓海。知らない誰かと母の子が恵美。
ええー、地味に繋がらないような繋がるような関係ですね。
 

聞いて後悔したといえば後悔したけど。
だけど、それが事実ならば受け止めるだけの心は持ってる。
でも、これだけは言わせてくれ!

『頼むからもっと節操持ってくれよ、うちの親たち!!!!!子どものほうが申し訳ない気持ちになるから!!!!』

私の心の叫びはもちろん届かない。

分かってる。分かってるんだけどさ。

そんな訳で、私たちは自分たちの出生の秘密を知ってしまったのだった。

***** 

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