「恵美ちゃん、おはよう」
すーっと俺の前を無言で通り過ぎる中学2年生。
上坂恵美。
真穂の異父姉妹。
ただそれは最近知ったことで、本人たちは生まれてから1カ月前まで、本当の姉妹だと思っていた。
いや、恵美ちゃんはたぶんその事実を多分知らないけど。
長くて黒いストレートヘアをさらさらとなびかせ、
すたすたと姿勢よく颯爽と歩く。
癖毛が最早パーマみたいになっていて、ショートミディアム、
少し猫背で柄悪くとろとろと歩いている真穂とは正反対。
生んだ母は一緒なのに、ここまで対照的なのもなんだかすごいと俺は思ってしまう。
不謹慎か。
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さて、ここで問題なのは、俺と恵美ちゃんのコミュニケーションが全く取れないことだ。
俺として最高級のさわやか挨拶さえ無視される。
あれ以上俺もさわやかな挨拶はできねえ。
「真穂~俺どうしたらいい?」
学校の帰り道、真穂に相談を持ちかける。
「私も恵美としっかり話したことないよ?」
「はあっ!?」
「いや、あいつは本当に無口で、父さんはおろか、母さんともまともにしゃべったところ見たことないし」
お前たち・・・・・・意外に家族崩壊してんな。
んん・・・・まあ、いっか、とりあえず。
親父は最高にウザいからいいとして、ママさんに対してもあんまり話してないのか。
そりゃー部外者の俺がいきなりコミュニケーション取るっても難しいな。
「いいから、俺はおまえんちで円滑高校ライフを送る上で、恵美ちゃんとしっかり話せることが大事なんだよ~」
「・・・・・なに?その円滑高校ライフって?あんたが来た時点で私の高校生活は崩壊してるんだよ、アホ」
「とにかく、お前もしっかりと恵美ちゃんと話せるようになったほうがいいと思うぞ!」
「・・・・・・・・」
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結局真穂に相談してもぜんぜん何の役にも立たなかった。
あの役立たず。ほんと使えねえ~
まあ、真穂だから仕方ねえな。うん。
自分の部屋からトイレに向かうため。
俺はうんうん唸りながら家の階段を下る。
ドンっ!
「うわあっ」
聞き覚えのない声が耳に入り、視線を前へ戻すと、あ
恵美ちゃんがぶつかってバランスを崩している。
自然と体が動き、俺は恵美ちゃんを支えた。
軽い。とっても軽い。
くらべて真穂は・・・・・・・・・。
俺と同じ体重で重い。
んだけど、それはさておき、
「だいじょうぶか?恵美ちゃん」
恵美ちゃんは俺を真っすぐに見つめていた。
その目が大きくて、きらきらしていて、俺は目が離せない。
「あ、・・・・・あり、がと」
ほっぺをすこし赤くしながら、そう言うと、立ちあがってすぐに自分の部屋に入ってしまった。
「いいえ、どーいたし・・・ま・・・・」
ってえええええ!しゃべった!!!!
恵美ちゃんがしゃべった!!!!
その事実にびっくりして、俺はその場で数秒立ちすくんでしまった。
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「恵美ちゃん、おはよう」
それからというもの、まだ「おはよう」は言ってもらえないけど、
はにかんだ笑顔を見せてくれるようになった。
一歩前進!
今度は「おはよう」を言ってもらうんだ!
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<あとがき>
やーっと出せました!恵美!!!!
設定では超内気でドシャイで真穂とは正反対の女の子です。
家族にも必要最低限のことしかしゃべってないです。
人見知りもいいところだよな~
A型だな、きっと!
いや、そんな女の子を振り向かせるのもまた一興・・・かもしれない。
読み返してみて気づいたけど、拓海はプレーボーイですね。
しかし相変わらずの拓海と真穂の罵り合いがひどい。
ほんとにお互いバッサリすぎて私も心配です。