秋が訪れた。
菜穂子さんに会って、自分の気持ちを打ち明けてから1カ月。
私は毎週1回は彼女の見舞いに行き、話をするようになった。
今も菜穂子さんのお見舞いの帰りだったりする。
「真穂~なんでお袋の見舞いに行くときは基本2ケツなわけ?」
「るっさい!兄なんだからそれ位しろ!」
菜穂子さんと話せば話すほど彼女の性格が伝わってくる。
とても堅実で、先の事まで考えていて・・・・・
拓海を大学に行かせる(しかも医学部でも)お金もしっかり蓄えてあるみたいだし。
不倫なんてするような人じゃないのに。
というかなんでうちの父みたいに軽い野郎がよかったのかとても理解に苦しむ。
いや、ほんと真面目に。
もっといい人なんてそこらじゅうにいたんじゃないかと思うんだけどさ。
母という存在がありながらも、私はやはり菜穂子さんを恨む気にはなれなかった。
「でも、お前すっげーよ」
「なにが?」
2ケツをしているため、息が絶え絶えになって拓海が言った。
「お前と話すようになってから、お袋の状態がすごく良くなった」
「てか・・・・それって私が強力なストレスだったってことじゃなくて?」
「あ・・・なるほど。だけど、正直言ってお前がお袋のこと受け入れてくれるとは思わなかったんじゃね」
まあ、それはあるか。
でも、もうすこし考えれば分かることだろーよ。
「お袋としてはすっげー責められると思ってたらしいから」
「まー最初はいろいろ言いたくもなったけど・・・・
私が菜穂子さんの行為を責めたら、拓海と恵美の存在まで否定することになるじゃん。そんなのだめでしょ」
今の私にあんたたちがいない生活なんてありえないから。
っていうのが正直な気持ち。
「・・・・・・そっか。ありがと、真穂」
私の返事は・・・・こうだ!
「いいい~痛い痛い痛い!!!!!」
耳を後ろっから思いっきり引っぱってやる。
それが私の愛情表現。
痛いぐらいにわかるでしょ?
「どういたしまして、お兄様」
とにかく自転車は進む。
そういえば・・・・家に向かう道じゃないんだけど?
どこにむかうんだこれっ!!??
*****
「え?ここ・・・どこ?」
自転車の後ろに乗った真穂が唖然としている。
それもそのはず。
目の前にはすごい豪邸が広がっているからだ。
「順平のうちですよ、真穂さん」
そう、何を隠そう、順平は資産家の息子なのだ。
なんだかドラマに出てきそうな位本当にすごい家なんだよな。
「で?順平君のうちでなにすんのよ?」
「焼肉パーティー」
「へ?ね、ねえ、勉強は?親に連絡は?ねえってば!」
うるさい真穂を無視して、俺は彼女を順平の家へ引っぱって行く。
すると、奥から順平が出迎えてきた。
「よーお、真穂ちゃん。あと拓海も。いらっしゃーい」
おい、何で俺が後になるんだよ。ったくこいつは。
俺は苦笑いしながら順平に挨拶する。
「よ、順平。わりーな、会場提供してくれて」
「いいよ、オレもしたかったしな、焼肉!」
「ねえねえ、なんでこんなことになってんの??」
「「だから焼肉」」
更に抵抗する真穂を引きずって奥に進むと噴水が見える。
てか何回見てもこの家は日本を感じさせねえ。
ヨーロッパかなんかじゃねーかと思ったり。
だんだん抵抗する真穂がうざくなってきたんだけど、離していいかな?
悪魔の俺が囁く。
いや、だめだ。そんなことすれば般若が何をしでかすか。
天使の俺が囁く。
耐えろ、耐えるんだ俺!!
そんなことを思っていたら、奥から聡が表れた。
「あ、聡。わりーね、遅れちまった」
「いーよー、おれもさっき来たばっかりだし」
というわけで、今日は男3人と俺の妹で焼肉!!!
とにかく焼き肉は男のロマンなのだ。
そこら辺は譲れない。
よっしゃああああ、なんか燃えてきたぜ!!
*****
とーっても豪華な部屋。
とーっても豪華な噴水。
広い部屋の中で、男3人と私。
ホットプレートを囲んで・・・・・なぜか焼肉。
しかもさっきから男共の食いつきぶりが半端なくて、
ぶっちゃけ引く。
ていうか私も肉食いたいんだけど、
3人の勢いに負けて、さっきから鍋奉行的なポジになっている。
食わせろ、私にも肉を食わせろ。
「ちょっと、私も食べたいんだけど?」
勇気を出してやつらに交渉する。
しかし彼らは食べることに必死で、私の話なんて聞いちゃいない。
「ねえってば!」
「だー、うっせええ!!!!」
答えたのは兄、拓海しかありえない。
「お前な、焼肉って言うのは戦争なんだぞ!?食いたかったら全力でかかってこい!!!!!!」
なぜ無駄に熱血!!???
しかも周りの二人もその意見に賛同するようにうなづいている。
だから男ってわかんねー!!!!
とにかく、肉を奪えばいいんだな!?
どりゃああああああああ!!!!!!
*****
2時間後。
ただ淡々と肉を奪い合う時間は終わり、ゆったりデザートの時間。
そう、焼肉とはバトル。戦い。
「てか、男の子っていっつも焼肉するときってこんなんなの?」
後半から勢いを増した真穂が尋ねる。
俺はちょっとキザに答えた。
「あー、そんなこともねーよ。たぶんここまで食うのに真剣になるのは俺たちだけ。」
「はあ!???」
「真穂ちゃん、でも楽しかったでしょ?おれも楽しかったよ」
「うん、なんか、無心になってたから、余計なこと考えずにすんだかも・・・」
「それが、オレんちでやる焼肉の醍醐味だぜ!いやなことあったときにはこれが一番!」
そ、なんで『無言焼肉』をしたかと言えば、いろいろ辛い思いをさせてしまった真穂への罪滅ぼし・・・みたいな部分がある。
お袋の事とか、いろいろ。少し嫌な思いさせちまった。
ま、これをあいつがどうとらえるかは神のみぞ知る、ってもんだけど、
これが俺なりの気持ちの表わし方。だったりする。
*****
順平の家からの帰り道。
再び2ケツ。
もちろん漕ぐのは、俺ですけどね!!
「どーだった!?『無言焼肉』」
息も絶え絶えに真穂へ尋ねた。
「うん、意外に楽しかった」
「だろー!?」
なんだか久しぶりに見る真穂のからっとした、心からの笑顔。
これから、受験に受験に受験。
本当にそれだけの生活になる。
しかも俺たちはそれプラス家族の関係っていうのもあり、結構ハードになるから。
真穂と俺、しっかりコミュニケーションとっていかないとな。
半分ずつ血の繋がっている兄妹。
半分しか繋がっていないのに、彼女は大事だと言ってくれた。
もちろん、俺も大事な兄妹であることには変わりない。
*****
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