RE:ep10 Good Luck !
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12月24日に勝負をすると決めた俺に、もう迷いはなかった。
もう、彼女に自分の気持ちがばれてしまってもかまわない。
そう思えば、なりふりかまわず自然に先輩と話をすることが出来た。
すると、それにつられてか、ふさぎがちだった先輩も笑顔を見せてくれるようになった。

・・・・ような気がする。

それは確か、彼女をクリスマスデートに誘ったときからだっただろうか。

この間、彼女に偶然キャンパスで会った時、意を決して半分強引にデートに誘った。
始めは少し戸惑った感じだったから、俺はすこしあせったんだけど、
最終的には照れながらも、やんちゃな笑顔を浮かべてOKしてくれた。

それからというもの、会話をすると常に楽しい雰囲気になる。
俺も笑顔だし、彼女も笑顔。
これ以上に幸せなことはないってぐらい、今は楽しい。

だけど、ここからが大勝負だ。
男として伸るか反るかの一大事。
デートをどのようにするか、プランニングを立てなければならない。

それに関しては智美さんでも由佳子さんでもなく、同じ男として森中に相談するつもりだった。
今まで、恋愛に関しては受身過ぎた俺にとって、ガチデートはほぼ初めてだ。
そんな自分の経験のなさ、あんまりお姉さん方には言いたくない。
なんか、恥ずかしいだろ?
森中なら、そんな俺のことも十分に理解してくれるに違いない。

*****

昼下がりの学食。
文学部校舎の近くなので、先輩に会う可能性はなく、安全なところだ。
いつものAランチにがっつきながら森中へ話を切り出した。

「デート??お前!デートすんの!?」

「ばか!声がでかい!!!!」

そんなに俺の相談事に驚いたのか、森中は素っ頓狂な声を出した。
Aランチの食いかけハンバークを盛大に噴出す様子から見ると、相当な驚きっぷりだったに違いない。

「悪りい悪りい、お前からそういう相談されるなんて思っても見なくてさ」

頭を掻きながら森中は謝った。
悪いと思ったら謝る。という素直なところも、彼のよいところのひとつだろう。

「で、誰と?」

待ってましたとばかりに、にやり、意地悪い笑みを浮かべて質問をしてきた。
交換条件、というわけでもないだろう。
彼の場合はただの興味本位だ。
正直答える筋合いはない。

「んな野暮なこと聞くなよ」

少しぷいっとしてそっぽを向くと、森中は空気を読んだのか「まあ、べつにいいけどさ」と引いてきた。
やっぱ、こいつは余計な詮索をしてこなくていい。

というわけで、俺は事情の半分ぐらいを・・・・先輩の事に関してはうまくごまかして、話をした。

「なるほどね~それで、お前は彼女に告白したいと・・・・そういうわけだな」

「そんな感じ」

こんな相談、こっぱずかしくて森中にしか出来ない。
森中はふんふん頷くと、うーんと頭を掻きながら、真剣な面持ちで考えた。
それから数分して、いろいろなプランを提案してくれた。
さすがはある程度真剣な付き合いをしているやつは違う。

「やっぱ定番といえばクリスマスならイルミネーションってもんかな、で、雰囲気よくなったら話をするな、オレなら」

うんうん、と今度は俺が頷く。
そうか、イルミネーション、その手があったか。

「だけど、オレが薦めたいのはその裏!」

「裏?」

「そう、大体イブの日ってイルミネーションのある公園はカップルで溢れちゃうわけ」

ほうほう、と相打ちを打つと、彼は話し続けた。

「だから、イルミネーションはないけど夜景が綺麗な公園のほうが、人目を気にせずにそういう真剣な話が出来る」

「なるほど」

「あとはそこに持ってくまで、どうやって雰囲気盛り上げるかとか、告白の仕方とかはお前次第だな」

森中は『頑張れよ』といい笑顔を向けてくれる。
本当に親身になってくれたお礼に、今度飯をおごる約束をして、俺たちは学食を後にしたのだった。

*****

デートを翌日に控え、俺と先輩は一緒のシフトに入っていた。

「ねえねえ、阿佐君は明日はどこにいくの?」

もう何回聞かれただろうか?
だけど、敢えて彼女にはどうするかを教えてはいない。
というのも、相手のどきどきを煽って期待させたほうがいいという森中の案である。

「だめです、先輩。それは明日になってからのお楽しみですよ」

そういってごまかすと、彼女はちぇ、といってすこし頬を膨らませる。
その仕草さえも可愛らしくてしょうがない。
以前だったらこんな子どもらしいことなんてしなかったのに。

「先輩は・・・・なんか変わりましたよね」

だから思わず、彼女にこう言ってしまった。
またやってしまった。
思ったことをそのまま言ってしまうという、俺のいつもの悪い癖。
だけど、彼女は大体笑ってさらりと流してくれるから心地よい。

「そう・・・かな?」

少しはにかんで先輩は答えた。

「そうですよ。なんていうか・・・・・生き生きしているっていうか・・・・そんな感じです」

「そうだったとしたら、阿佐君たちのおかげだと思うなあ」

先輩は俺を見て、そう言った。
その真っ直ぐな瞳を見て、どきっとしてしまう。
と、同時に『阿佐君たち』かあ、と少しがっかりもする。
たち、ってことはそのほかの人たちも含まれるって事で・・・・。
俺としては、『阿佐君のおかげ』といって欲しかったなあ、なんて淡い気持ちもあったんだけど。
彼女に色恋めいた台詞を期待するなんて、それはとんだお門違いもいいところだ。
そんなことも全部ひっくるめて彼女に入れ込んでいるんだから。

「みんなのおかげで私は成長しているから」

少し恥ずかしがっているけど、そのやんちゃな笑顔は破壊力抜群だ。
ああ、俺本気で惚れてるよな。
もう何回もおんなじことを思っているけど、再確認。
だから、俺もこう答えてみる。

「だったら僕もそうですよ、これで一緒ですね」

そう。だったら俺もそうだ。
先輩のおかげ。先輩だけじゃない。
相談に乗ってくれた智美さん、由佳子さん、森中。
先輩を嫉妬させてくれたまど香さんもそう。
みんなのおかげでこの恋をどうにかしようとする決心をつけることができた。

俺もみんなのおかげで成長することが出来た。

ずっと適当に女と付き合ってた。
言い寄ってくる女を自分勝手な理由で傷つけても、平気だった。
だけど、今なら彼女たちの気持ちが痛いほど分かる。

ほんと、俺悪いやつだったな。

みんなのおかげで、人を好きになる幸せと苦労を知ることができた。

明日、俺はどんな形でも、彼女に自分の気持ちを伝えたいと思う。
ヘタクソになるかもしれないし、上手く伝わらないかもしれないし、
もしかしたら彼女に拒否されるかもしれないけど、でも伝えたいんだ。

「先輩、僕、明日先輩にしっかりとお話ししたいことがあります。だから、僕がもし忘れてたら、言ってくださいね」

そう告げると、先輩は「うん」と言っていい笑顔を見せてくれた。

 


明日、決戦の火蓋が切られるのは午後1時。

天気はとりあえず晴れる予定だけど、結構寒いらしい。

今日、先輩の沢山の笑顔を見せてもらった。

お蔭様でなんだかいい予感がするんだ。

失敗する気がしない。

バイト帰りの満点の星空の下。

俺は静かに明日への闘志を燃やしたのだった。


*****
 

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