RE:ep11 I Love You
.

12月24日。
世間一般では恋人たちの日とされているこの日。
ついに俺の勝負の日がやってきた。

今日の天気は晴れ後曇り。ところにより雪が降る可能性もある。
と、朝のニュースで言っていた。
とにかく寒いらしい。
だけど、寒かろうがなんだろうが俺には今日やらねばならないことがある。
人生2回目の告白。
上手くいくかなんて、全然自信ない。
でも、とにかく一生懸命に伝えることが大事だって森中が言ってたから、あとは当たって砕けるだけである。

*****

午後1時。
大学のキャンパス前のコンビニで先輩と落ち合った。
やっぱり気合を入れた?先輩はカワイイ。
まあ、先輩の当日の服装は、智美さんの手がかなり入っているそうだが。
(智美さんと先輩で一緒に買出しにいったらしい)
黒のジャケットにアーガイルセーター、カーキのショートパンツに黒のタイツ。
正直、カーキのショートパンツは先輩の脚が見えて、すこしそそられる。
細いわけではないけど、筋肉が程よくついているのが分かる脚。
そこらの『美脚』を自慢する女の脚よりもよっぽどいい。

今日の「デート」はしっかりと綿密に予定が組まれていた。
まずは映画。
最初に先輩と俺がデートもどきをしたアウトレットモール。
実はあそこにシネコンもあったので、いろいろ雰囲気を盛り上げるためにもそこを選んだ。
だって、前のことをネタに話も出来るし、2人でぶらぶらも出来るし・・・
とにかくいろいろできるだろ?

そして、智美さんに先輩の好きそう映画をいくつかピックアップしてもらっていた。
―コメディ・サスペンス・海外アクション。
以上3つの、いかにも先輩らしいチョイスから俺が選んだのは・・・・

「え!まさかこの海外アクション!!!!???」

そう、俺は自分も見たかった海外アクションを選んだのだった。
意外だったのか、見る映画を知った彼女は素っ頓狂な声を出して、驚いていた。
何の映画を見ると予想していたのだろうか。

「そうです。僕も実はこの映画、見たかったんですよ」

すると、先輩からはうれしい言葉が。

「うっそ!私、これ丁度見たいと思ってたんだよね~」

「だと思いました。先輩なら、こういうの、好きだと思ったんですよ」

「さすが、よくわかってくれてますね!」

「当たり前ですよ、何ヶ月バイトを共にしていると思ってるんですか」

「だよね、頼りにしてますよ」

先輩の顔から笑顔がこぼれ、一気によい雰囲気になった。
俺は心の中で映画のチョイスをしてくれた智美さんにお礼を何度もしておいた。
でも、実はこの映画が先輩にはぴったりなんじゃないかなー。
なーんて。
智美さんに聞く前から、そんなこと感じていたりもしたので、余計に嬉しさ倍増である。

映画を見ている最中。
ぶっちゃけ映画の内容に集中できない・・・・。
ちらちらと先輩の様子を伺ってしまう。

なんでも、この人、映画の内容に気持ちがリンクしすぎなんだよ。
まるで主人公になったかのようだ。
危機一髪、危険から逃れたときにはほっとした表情。
爆弾が爆発すると、すこし体をビクッと震わせて驚いているし・・・・。

ちょっと幼いこの様子、見ていて面白すぎる・・・。
普段のてきぱきと仕事をこなすあの姿からは想像できない。
彼女のこんな姿、きっと皆は知らない。
あの智美さんでさえ、一緒に映画にいったことがないそうだ。
そう思うと、ついつい口元が緩んでしまう。

先輩の様子を見ることに集中しすぎて、俺は映画の内容をキチンと覚えていなかった。
だから、ふらりと寄った喫茶店で、先輩に映画の話を振られても、しどろもどろになってしまったんだけど。
彼女は全く気にする様子もない。

このおおらかさ。
どうしても言動とかがキツくなる時がある(らしい)俺には、さらっと流してくれるぐらいの人が丁度いい。
気を遣うけど、気を遣いすぎる必要がない。
だから俺もいつもの自分を彼女の前にさらけ出すことが出来た。

それがなんだか楽しくて、今日は妙にテンションがあがる。
彼女もそのテンションについてきてくれるから、とても心地いい。
二人の気持ちがひとつになっている。
そんな錯覚にも陥るぐらい、今日はまた特別なような気がした。

*****

午後5時を過ぎて、あたりが暗くなってくる頃。
街が灯りで色づくと共に、雪が降ってきた。

「うわあ~雪だ!」

「ほんとだ。なんだか、ロマンチックですね」

無邪気な笑顔を浮かべて空を見上げる先輩。
思わず俺も笑顔を返す。

先輩の笑顔に今日は何回ノックアウトされただろうか?
何度抱きしめたい衝動に駆られただろうか?
俺、結構理性で抑えられるタイプだと思ってたんだけど、
先輩を前にすると・・・なんだかだめみたいだ・・・・。

あ、先輩が手をこすり合わせて息を吹きかけている。
街頭の気温計を見ると、なんと0度。
そりゃー寒いわけだ。
ふと周りを見渡すと、カップルらしき人たちがみんな暖めあうように肩を寄せ合っている。
あんな風に、俺も先輩と肩を寄せ合うことが出来たらどんなにいいだろうか・・・・。
無理だよな・・・・。

「でも。寒いよね・・・手袋してくればよかった」

「確かにそうですね。早く車に戻りましょうか。」

俺がそういうと、先輩はうん、と首を縦に振った。
これから、夕食を摂りに頑張り過ぎない居酒屋を予約していた。
まあ、車のこともあるから、酒を飲む予定はないが・・・・。
下手にレストランなんかに行くよりか、気楽になるだろうと思ったからだ。

それにしても、先輩の手は綺麗だった。
白くて、指も長い。
だけど、所々にひび割れが出来ていて・・・・。
ああ、バスケをやってるせいだろうなってことが分かる。

あの手に、触れたい。

そう思うや否や、俺の口からこんな言葉が出てきてしまった。

「先輩。手、貸してください」

「え?」

半ば強制的に手を取ってしまった。
初めて触れた彼女の手は、触り心地はよいのに、まるで氷のように冷たかった。
だから俺はまた思わずこんな行動に出てしまった。

「うっわ、冷たい!車に戻るまで暖めてあげます」

そして彼女の手を繋ぎ、自分のポケットに入れておいた。

自分でも、なぜこんな行動に出てしまったのか分からない。
なぜか抑え切れなくて、我慢できなくて、止まらなかった。
だけど、自分の気持ちが満たされていくのが分かる。

こうやって手を繋いでいる俺たちは、
機から見ればコイビトに見えるであろう、この優越感。
だけど同時に先輩の同意を得ていないこの行為への不安感。
この二つが心の中を渦巻いている。

彼女は、手を繋いで車に戻るまでのわずかな間、一言も喋らなかった。
もしかして、嫌だったかな?
そんな不吉な予感が頭を過ぎるが、今は都合の悪いことは考えないようにした。
だって、もし今日振られたとしたら、彼女に触れることは二度とできない。
そしたら、ここでためらった自分にきっと後悔する。
だから、いいんだ。


*****

ショッピングモールから車で約30分走ると、丘の上から市内の景色が楽しめる公園がある。
そこにはクリスマスイルミネーションはないものの、絶景の夜景を見ることができる。
俺は決戦の場所をここに選んでいた。

「うわあ~すごく、きれい!!」

駐車場からも夜景の様子を垣間見ることができるため、
車を降りた途端、景色をよく見るため、先輩は走り出していた。

夕方から振り出した雪はかなり小降りになり、外を散歩するのにも邪魔にならない程度であった。
まさにホワイトクリスマス。
ロマンチックな雰囲気である。

さあ、ここからが本番だ。
手を繋いだ後、少し気まずくなると思いきや、
あまり先輩は気にしていないようで、夕飯もいつもどおり、会話をしながらもりもり食べていた。
先輩のこの振る舞いに俺に少し勇気をもらう。
果たして先輩は俺の気持ちを受け取ってくれるだろうか・・・。

「そういえば、しっかりと話したいことって何?」

二人で並んで歩いていると、彼女がいきなり今日の肝の話題を振ってきた。

・・・ちょ、ちょっとまだ心の準備が・・・・・。

あせった俺は急いで話題をはぐらかす。

「もっと近くで街の夜景を見ながら話しましょう」

彼女も分かった、といって頷いてくれたので、ほっと一息。
だけど、なんとなくまた不安になって、空いていた彼女の手を取って繋いでしまった。

俺・・・ちょっとは自重してくれよ・・・。

手を繋いだら、彼女の仄かなぬくもりが俺にも伝わって、安心することが出来た。
恥ずかしくて顔を見ることは出来ないけど、彼女も抵抗する様子がない。
また、勇気を少しもらった。

2~3分歩き、公園の展望台に着いた。
そこから望む市街地の夜景は本当に本当に美しくて。
また、ちらちらと降る雪が美しさに拍車をかけている。
先輩と俺はフェンスに寄りかかり、しばし無言で夜景を見ていた。
二人の体の距離はほとんどない。
体と体が微妙に触れ合うこの距離が今の俺たちの距離のような気もする。

さて、軽くジャブでもかけようかと思ったとき、先輩がぽつり、こうつぶやいた。

「なんだか、贅沢ものだなあ、私。」

話の意図を掴むことができず、「なぜですか?」と聞くと、彼女は夜景を見ながらこんな答えを返してきた。

「・・・・いろいろ独り占めしてる」

まだ意味を汲み取ることが出来ずに、「例えば?」とたずねてみる。
すると、彼女はちょっとはにかんだ様子でこう答える。

「きれいな夜景、楽しい時間――」

そして、すこし間を空けてから・・・。
俺の瞳を真っ直ぐに見つめて、無邪気な笑顔で、最後にこう付け足した。

「・・・それに阿佐君も」

その笑顔と言葉に、俺の中で何かがぷつっと切れたような気がした。

「先輩の笑顔は素敵です」

会話の内容を敢えて無視して、俺は返事をした。
自分に余裕がなくなっていくのが分かる。

「またまた、よく見えないくせに」

彼女はまた照れているのか、目線を逸らしてそう答える。
その顔、きれいな顔つき、白い肌、優しそうな目つき、薄くグロスをひいているであろう唇。
すべてが俺を煽っている。

「見えてますよ。ずーっと僕はその笑顔を見てたんですから」

彼女は小さく、え?といってこちらを向くが、俺は答えない。

――もう、言葉は要らない。

だんだんと彼女の顔に近づいていく。
自分でももう、止められなかった。

「ちょ・・・・っ」

さすがの彼女もちょっと抵抗を見せたが、それぐらいで止まる俺ではなかった。

「ダメ・・・・ですか?」

そっと、囁くと、彼女は抵抗をやめた。

触れるか触れないかギリギリのところで、一回彼女と目を合わせると、
俺から目をしっかりと瞑って、優しく口つけた。
触れた唇は温かくて、やわらかくて・・・。

――もっと欲しくなる。

だけど、ここで暴走してはいけない。
彼女にしっかりと意思表示をしなければいけない。
多少順番を間違えてしまったことに後悔したけど、もう後には戻れない。

顔を真っ赤にしてうつむく彼女の肩を引き寄せ、そっと抱きしめた。
もう唇を重ねあったのに、いざ、言葉で確かめ合おうとすると、緊張する。
恥ずかしながら、少し手先が震えてしまった。

「春さん」

初めて、彼女を名前で呼んだ。
頭が真っ白で、しどろもどろになりながらも、なんとかして言葉を繋げていく。

「僕、今とてもどきどきしてます」

すると、胸に顔をうずめていた彼女から、返事が聞こえてきた。

「・・・私も」

触れ合ってるところから、彼女の鼓動を感じる。
多分、俺のも彼女に伝わっているはずだ。

「春さんがどきどきしているの、感じます」

彼女のこと、更に愛しくなって、腕に込めた力が強くなる。
俺には変化球は投げられない。
俺には直球勝負しか出来ない。
そう思って、素直な気持ちを口に出した。

「僕、春さんのことが好きです」

すると彼女ははっとして、俺を見上げてきた。

「春さんは、僕のこと、どう思ってますか?」

彼女は俺から目を逸らして、しばしの沈黙が訪れた。
今先輩は何考えてますか?
彼女が言葉を発するまで、
俺の心臓は本当に死ぬんじゃないかってくらい、早鐘を打っていた。

ちょっとしてから、彼女は俺をぎゅっと抱きしめ返して、こう返事をしてくれた。

「・・・・・・好き」

――!!!!!
ほんとに!!??
信じられないが為、俺は彼女に再度確認をする。

「・・・・・ほんと、ですか?」

すると、彼女が呆れた顔をして、俺を見つめてこう言った。

「・・・・・こんなことで嘘ついて、どーすんのよ」

「です、よね」

ぷっ。
二人同時に噴出す。

「春さん」

「なに?」

「大好き」

「私も」

はにかんだ笑顔をくれる彼女があまりにも可愛らしくて、改めてもう一度、キスをした。

***** 

<あとがき>

いやいや、半分思いつきで始まったREVERSE-EPISODEですが、
無事に完結することができました!!!!
いままでお付き合いいただいてありがとうございました。
ほんと、慶太朗も春も少しずつ大人になりましたね!
書いていて、自分も楽しかったです。


RE:ep Topへ