RE:ep9 I desided
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先輩と一緒に飲みに行った1ヵ月後。

「嫉妬、だといいけどねえ~」

バイト中、由佳子さんにあの飲みでの出来事を話すと、
にやにやと少し意地悪そうに俺のことを見てこう言った。
なんでそんなに楽しそうなんだよ、あんたは。
まるで他人事のような由佳子さんを見て、俺は心の中で悪態をついてしまった。

「春ちゃんの考えていること、誰かさんとは違って分かりにくいのよねえ~」

そんな俺の気持ちを知ってか知らずか・・・
由佳子さんは更に意地の悪いことを言ってくる。
しかし、こんなことを言われても尚、なぜかこの人には逆らえない。
かんっぜんに他人事なんだよな、この人・・・・。
相談をした人を間違えたのではないかと自問自答する。
が、もうなかったことにはできない。

「あ、だけどこの間、春ちゃんからこんなこと聞かれたのよ」

少しはよい情報が得られるかもしれない。
だからなんですか?と聞き返す。

「『例えば、自分と仲のいい人が、他の人ともとっても仲良くしていたら、どう思いますか?』って」

「まじですか??」

「ええ、まじで」

とってもおしとやかに答える由佳子さんだが、これってもしかしてって思いませんか??

「で、由佳子さんなんて返したんですか?」

「『女ならちょっと仲間はずれになった気がする気もするし、男だったら嫉妬する』って言ったけど?」

「で、城高先輩は?」

「嫉妬って何?って感じの顔してたわね・・・。」

え?ほんとそこまで知らないのか?

由佳子さんから聞いた情報は、俺にかなりの衝撃を与えた。
いや、先輩だって人なんだから、恋のひとつやふたつ経験しているに違いないのに・・・・。
それなのに、「嫉妬」を知らないと?
なんだか違和感を感じるのは俺だけだろうか?


*****

1週間後、その謎は智美さんの情報により、理由が判明した。

「阿佐ちゃん、あいつは結構な天然記念物であることが判明した」

またまたバイト中、智美さんが少し呆れた顔をして俺に話しかけてきた。
最近バイトもほぼ恋愛相談所みたいになってきているなあ・・・・
自分の公私混同ぶりに苦笑いしながらも、言葉の意図が分からず、智美さんに思わず聞き返した。

「天然記念物?」

「そ、天然記念物」

どういう意味か分かりかねて考えていると、智美さんが衝撃の一言を俺に告げた。

「春はね、本気で人を好きになったことがないらしいよ」

「はあっ!!??」

思わず大声を上げる俺に、智美さんの本気の蹴りが入る。
仮にもバイト中。
お客さんに不振がられる行動をすれば、クレームが入ってしまうのだ。
だから、耳打ちで話を続けた。

「どうも、小学生のクラブでスポ根を植えつけられたみたいでね・・・・」

智美さんの話をまとめると、城高先輩は小学生のクラブで恋愛禁止令を受けてしまい、
『バスケが上手くなるためには、恋愛をしてはいけない』ということ真に受けて、
今日この日まで生きてきたとのことである。
それを聞いて、ほんとにそんな人いるんだな・・・と逆に感心してしまった。

この話を聞くと、先週の疑念もこれですっきりする。
人を好きになったことがない人ならば、当然、嫉妬という感情を最初から理解できるはずがない。
だから、由佳子さんとの会話もうまくかみ合わなかったのだろう。

ほんとにどんだけニブチンなんだろう、あの人は・・・。
そりゃあ、確かにあんま恋愛経験なさそうだなとは思ったけど、
まさかそこまでだったとは・・・・。
確かに智美さんが『天然記念物』だといって呆れるのも分かる。
だけど、穢れない人だってことが今回の情報で分かり、正直俺は嬉しい。

ひとつ、俺の中ではっきりしたことがある。

俺が彼女の『初めて』の人になりたい。

このことを知って、はっきりとそう思った。
もう、先輩が俺のことをどう思っていようが関係ない。
俺のことを好きにさせたい。
こう決心した。

「智美さん、ありがとうございます。この情報で俺、決心つきました」

智美さんにそう告げると、彼女からは、がんばれよ!という言葉を頂いた。

1ヵ月後に迫った12月のクリスマスイブに勝負をする。

そう、決めたのだった。

*****

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