RE:ep5 That was you
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「おはよう、阿佐君」

今日もキャンパスで出会った先輩の笑顔が離れない。
授業中も考えるのは、次のバイトの日のこと、先輩のこと・・・・。

俺、あの日気づいちゃったんだ。

先輩とショッピングに行ったとき、彼女のいろいろな顔を見た。
いつもの綺麗な笑顔はもちろん。
無邪気に笑う顔。
ちょっと意地悪そうにからかう顔。
真剣に気持ちを伝える顔。
・・・・他のバイトの人たちには、あんまり見せない顔を先輩はたくさん見せてくれた。

他の人には見せたくない。
俺だけが知っていればいい。

正直そう思った。
たぶんこれは俺が1年間封印してきた方向の気持ち。
なるべく関わりたくないなあと思っていた気持ち。

・・・・誰かを好きになる。という気持ちだった。

俺から誰かを好きになるなんて、中学3年のとき以来だ。
そのとき好きになった人は部活の同期の子だったと思う。
確か笑顔が素敵な子だった。
毎日毎日好き過ぎて苦しくて、でも告白したらOKをもらえた。
ただ、中学生の付き合いなんて高が知れてる。
3ヶ月付き合って、ちょっとやることやって、高校になって連絡が疎遠になってしまった。

それ以来、俺は人を好きになっていない。
いや、正確に言うと、自分から告白をするということをしていない。
言い寄ってくる女と気が合えば付き合って、別れてを繰り返していた。

なんで俺は先輩を好きになったんだろう、って思ったときに、
やっぱり思い出されるのはあの笑顔で。
俺はきっと笑顔が素敵な人が好きなんだろうなって、そう思った。
それから、男に媚びないあのさっぱりした性格もそうだし、
年上なのになぜか放っておけない、アンバランスなところもそうだった。

そんな彼女に惹かれている。
先輩は俺の気持ちを掴んで離さない。
虜になるってこういうことじゃないかと思ったぐらいだ。

俺はこの気持ちがまだ上手く整理できていなかった時もあった。
彼女と一緒に働くだけで楽しくて、ぶっちゃけこのままでもいいかって思えた時もあった。
だけど、やっぱそのままで良い訳がない。
なんとか彼女に近づきたい。

一緒に出かけてから、1ヶ月が経過しただろうか。
俺の気持ちはなんとなく固まりつつあった。

*****

バイトの休憩が終わって、受付に戻ってくると、あろうことか先輩と森中の楽しい話し声が聞こえた。

俺は少しむっとする。
彼女のいつもとは違う顔が森中に見られている、そう思うと嫌な気持ちになる。
この浅ましい嫉妬の気持ちさえもなんだか懐かしいが、複雑な気持ちだ。

「おっと、噂をすれば阿佐少年、交代の時間?」

森中がこちらを向いた。俺に気づいたらしい。
噂?何の話してたんだよ?俺の話?

「そうだよ、時計見ろよ。もう21時だろ?」

そこにはあえて触れずに、俺は森中に交代を告げた。

「おお、ホントじゃねーか!そんじゃあ、オレはジムの方に行かなきゃ!」

「だな、俺とバトンタッチだ」

いつもなら笑顔で答えるだろう俺だが、正直今はそんな穏やかな心境じゃない。
自分が話題になるの、気になっちゃうんだよ。

「先輩、森中と何話してたんですか?」

たまらなくなって、思わず俺は先輩に聞いてしまった。
あんまり余裕がなくて、いい聞き方してないなあと思う。
まだそこまで俺は大人になれないみたいだ。

「うーん、いや別に特にたいしたことは話してないけど・・・・」

ほら、俺がこんな風に聞くから、先輩は少し困ったように返事をした。
だめだ、俺。
ちゃんと先輩に笑顔でフォローしないと・・・。

そう思って、俺は取り繕うように「ならいいです」と答えた。
彼女を傷つけてしまっていないか、それだけが気になる。

その後はいつもどおりの会話をすることが出来ていた。
明後日から先輩は教育実習に1ヶ月近くいくため、俺は先輩に全く会えなくなってしまう。
分かっていながら、やはりさびしいものはさびしい。

店の閉めを終え、先輩と別れても、まだ寂しさは募る・・・・。
この1ヶ月、どう気持ちをやり過ごせばいいんだろう。
正直そう思った。

*****

『阿佐ちゃーん、あんたもしかして、春のこと好きでしょ?』

時間を少し戻して、先輩が教育実習に行く二週間前。
マシンジムでシフトに入っていたとき、
一緒に入っていた智美さんが突然こんなことを言った。

がっしゃーん!!!

俺は持っていたプラスチックの枠に入った広告を思いっきり落としてしまい、
漫画かよ!!って自分で自分につっこみたくなった。
でも、誰にも言ってないはずなのになぜ!????って思うだろ?
あまりにも驚きすぎて、思いっきりベタなリアクションをしてしまったのだった。

『あはは~やっぱりね~』

もう反論の余地がないと悟った俺は、なんで分かったんですか?と智美さんに聞いた。

『だって分かるよ。阿佐ちゃん最近春の話しかしてないし、ずーっと春の方ばっかり見ているし。ばれる人にはばれる。
ちなみに由佳子さんも分かってたよ』

俺って、そんなに分かりやすいヤツだっけ?
疑問は残るが、由佳子さんにまでばれていたことの方にもショックを隠せなかったりする。
正直、お姉さまたちの目はごまかせないってやつだろうか。

『大丈夫、だれにも言わないよ~そんな野暮なことはしない。ね、協力してあげるからさ。』

そりゃばれてしまったものはしょうがない。
使えるものは使ってやれ。である。

『だけどね~春は正直読みきれないっていうか、天然なんだけど天然じゃないって言うか・・・・』

智美さんはちょっと困ったような顔をした。
まあ、分かるような気もするが・・・。
○○なのに、○○じゃないっていうのは、彼女のためにあるような言葉のように思う。

『とりあえず、春も最近いろいろ溜まっているみたいだから、飲みにでも誘ってあげるといいよ』

なるほど、さすがは友達情報。
やはり力になってくれる人がいると心強い。
今、彼女に近づきたいと思っている俺にはぴったりの情報である。

そんなこんなで、俺は不本意ながらも智美さんと由佳子さんという、
強力なお姉さま方のサポートを受けることになったのだった。
まあ、半分冷やかしみたいなもんだけど、俺一人奮闘するよりかよっぽど良いに違いない。


・・・・だけど、俺ってそんなに分かりやすいのか・・・・。

そんな悲しい事実も同時に判明してしまったのだった・・・・。

*****

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