RE:ep4  Like or....
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「なー阿佐ー?聞いてよ~オレの彼女さ~」

俺は数少ない学部の友人、森中と食堂で昼食を共にしていた。
ちなみに先日、図らずともバイト先も一緒になったばかりである。
髪の毛を金髪に染めて、ワックスで立ち上げたその姿はまるでどこかのヤンキーだ。
しかし、その外見に反して素直で真っ直ぐで親しみやすい。
俺はどちらかというと、友人ともある程度の距離を置くが、
彼はどんな人に対しても、よい距離感を保ちながらも親しくしてくれる。
その距離感が俺には丁度いい。

・・・・まあ、たまに彼女自慢されるのはうざったいけどな。
それも彼のご愛嬌といったところか。

「阿佐はどうなのよ?最近?」

「え?」

と、突然話題を振られて、ちょっと返答に詰まってしまった。
というのも、城高先輩のことが頭を過ぎったからだ。
彼女とのお出かけ先は、最近郊外に出来たアウトレットモールであることが決まったばかりである。

返事をしない俺を見て、森中がなにかを勘違いしたらしい。

「お?なんかいい感じのひとでもいるの?」

「そんなことない。」

そこは即座に否定した。
すると彼は特に追求することもなく、あっさりと「なんだー」と言って退いてくれた。

「オレは春さんかと思ったのになー」

「はあ!?」

まずい。思わず大声を上げてしまった。
森中は俺の反応を気にせずに話を続ける。

「だって、あの中で一番男慣れしてそうでしてないのって、春さんでしょ?
お前も女に慣れてそうで、そこまで慣れてないから一番良いと思ったんだ。俺なりの推測だけど。」

へえ・・・・それは気づかなかった。そんな風にあいつには見えたんだ。
それと同時に、なんか面白くない。
先輩を簡単に「春さん」と呼ぶ俺の友人。
俺は未だに先輩だけは「春さん」と呼べずにいた。
智美さんとか、まど香さんとか、由佳子さんなんかは普通に呼べるのに、先輩だけはなぜか「先輩」
自分でもなぜか分からない。

俺がそんなことを考えているのを多分知らずに、森中はひとり、しゃべり続ける。

「春さんは体育科だから、男との表面的な付き合いにはノリよく対応できるけど、たぶんありゃー恋愛系には弱いとおもうぜ。」

なんか、俺のほうが先輩と長く仕事しているはずなのに、森中に先を抜かされたようで面白くない。

あれ?このキモチって・・・・

俺の心の中に「ある」気持ちが芽生えそうになっていることに気づいたのは、そのときだった。

*****

「先輩、なんか雰囲気違いますね~」

「まあね、私が本気出したらこれぐらいですよ!」

お出かけ当日、午前9時にキャンパスへ先輩を迎えに行った。
実は先輩の私服を見るのが少し楽しみだった。
車を買って、初めてのドライブにうきうきしていたのもあるが、
俺のテンションはかなり高かった。

だって、キャンパスの前で待っていた先輩はいつもとまるで別人。
膝丈のデニムスカートに水玉のシャツ、黒のジャケットを上から羽織ったその姿は、いつものジャージ姿からは想像できない。
しかもご丁寧にしっかりと化粧もしている。
シンプルな顔立ちにあったその化粧も厚すぎず、好感が持てるものだった。

正直、予想よりもかなりクオリティが高く、ちょっと見とれてしまう。

そんな気持ちを知ってか知らずか、俺の車の初めての同席者はいつもと同様、
かなりの気取らない宇宙人っぷりで俺を楽しませてくれた。


「そうだね~とりあえずスポーツ用品店を見に行きたいなあ~」

ショッピングモールにつき、どこに行きたいかリクエストを聞いたところ、迷いなくそんな答えが返ってきた。
その迷いのなさに俺は思わず吹いてしまう。
いきなりジャージとかどこまで気取らないんだこの人・・・・。
女の駆け引きとか計算とか、そんなものを一切感じない彼女のいいところは、たとえ男と二人きりになっても健在である。

「ちょ・・なにがそんなに面白いのよ」

その俺の反応を見てか、彼女が少しむくれてきた。
だから、俺は正直に答える。

「いや、先輩らしくていいなと思って」

彼女は「そうか~?」と言って不思議そうに首を傾げるが、それ以上は追求してくる様子はなかった。
てか、気にしなさ過ぎ。
小さなことを気にしない彼女もまたいいけど。

「じゃあ、行きましょう」

そう言って、スポーツ用品店に向かったのだった。

*****

昼飯を済ませた後、今度は俺のリクエストに彼女が答え、ブランドショップに来ていた。
俺は割とブランドにはこだわるが、彼女は私服に関してあまりこだわりがないらしい。
ジャージに関してはかなりこだわりがあるのは午前中のあの様子でよーく分かったが、
本当に洒落っ気がないというかなんというか・・・・。

「これ、どっちがいいかな・・・・?」

俺は物を買うときにかなり迷うほうで、今も白いシャツを買うか、ストライプのシャツを買うかで迷っている。
先輩はさっきもアドバイスをしてくれたから、あとは俺が決めるだけである。
・・・・・だけど、決められないんだよな。
一方で、先輩は逆である。
これ!と決めたら即決。
・・・・・とってもうらやましい。
俺も男なんだから、こう、男らしい決断が出来る人になりたいんだけど、
こういうところは先輩の方がオトコマエだ。
・・・・・なんだかちょっと悔しい。

「せんぱい・・・すいません、まだ決められません」

暇そうに物色している先輩に声を掛けると、右手を挙げて笑顔を向けてくれる。
はー、俺ってなんて決断力がない男なんだろ。
なんてちょっと自己嫌悪に陥ってみたり・・・・。

「お決まりですか?お客様?」

彼女はニヤッとしながら、俺をからかい始めた。
うわ・・・意地悪そうな顔。
でも、始めてみた顔。
誰にも見せたことないんじゃないかなってぐらい、レアだと思った。

「茶化さないでください!」

むくれて返事をするが、少しそんな彼女に見とれてしまって、声が少し上ずってしまう。
その後すぐに、俺は彼女が進めてくれたストライプのシャツを購入したが、店を出てからも彼女は俺をからかい始めた。

実は、そうやって人をからかう彼女って始めてみるから新鮮で。
いじられることにあまり慣れていない俺だが、なんだか嫌ではない。
でも、さすがにやりすぎたと反省したのか、彼女は謝ってきた。

「ごめんごめん、意外でつい面白くて。気に障ったなら謝るよ」

「そんなに意外ですか?」

「うん、普段仕事ではそんな雰囲気ないもん。私もよくサポートしてもらっているし、頼りになるし」

そんなことない。
俺なんてまだまだだ。
正直、あの受付の仕事、先輩がいなければ成り立たない部分が大きい。
シフト的にも、業務的にも。
店長からもそれはお墨付きの実力である。
まあ、それを鼻に掛けないのが先輩らしいっちゃー先輩らしい。
だけど俺からしたら逆に先輩に自信を持ってほしいと思う。
なんで、この人はここまで自分に自信がないんだろう?
そんなことを思っていると、先輩は更に言葉をつなげた。

「そんなことあるの!自信持ちなって!」

え?
いつにもなく真剣な表情に俺はとまどった。
ちょっとむきになって気持ちを伝える姿は、また始めて見るもので。
なんだか、申し訳ないはずなのに・・・正直嬉しい。

「・・・・・ありがとうございます」

ちょっと真剣な先輩に俺は照れてしまって、彼女の顔は見れずにただ答えてしまったのだった。

*****

家に帰って思い出されるのは、いつもの「綺麗な笑顔」だけではない先輩だった。

目的地に着いて早々ジャージを見に行きたいとさらりと述べたり。
昼飯にパスタを食べたのだが、別にお上品ぶるわけでもなく、もぐもぐとおいしそうに頬張ってみたり。
なかなか決められない俺をからかってみたり。
かと思えば、真剣な表情をしてみたり。
さすがに帰りの車の中は疲れてしまったようだが。

本当にこの人は見ていて飽きない。

正直・・・もっと一緒にいたいって思った。

そして、あの姿、他の誰にも見せたくない。

俺だけが知っていればいい。

そう、この気持ちが何なのか、俺は知っている。

それは・・・・。


*****

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