彼女の趣味、それはゲームとネットらしい。
それを聞いても俺はひかないぐらい、城高先輩に入れ込んでいた。
いや、普通の女だったら絶対引いてるけど。
マイナスポイントをも凌駕する彼女の魅力とも言うべきか。
まあ、とりあえず俺は先輩を気に入っている。
それは間違いない。
とにかく先輩が読めない人だということは変わりないのだけど、
どこか不思議な魅力を兼ね備えているという人だということが分かった。
女なのに、女のように見えない。だけどふいに見せてくる女の部分。
一週間共に働いているが、未だ彼女の素が見えてこない。
まるで宇宙人である。
仕事をしていて完璧なのに、どこか抜けていて、
何もないところで転んだり、ヤフーをヤピョーとパソコンで打ってみたり。
そのアンバランスさは意外で、本当に見ていて面白い。
本来の俺なら、相手に悪い思いはさせまいと、なぐさめたり、安易に大丈夫といってみたりするのだが、
この人相手に下手な取り繕いをすることはなぜか出来なくて、
「先輩、ドジが面白すぎです」など、ついつい辛辣なコメントをしてしまうのだった。
言った後に「しまった」と思うんだけど。
時、既に遅し。
まずいな、と思いきや、それでも彼女は気にする素振りもなく、
「ごめんごめん」とまた、綺麗な笑顔で笑うのだった。
正直、一緒にいて楽だな。
俺が気を遣う必要がない。
こんな女、俺の周りには今までいなかったニュータイプである。
*****
桜が舞い散るある日、俺は先輩と一緒に帰路についていた。
というのも、農作業の授業を先輩たちと受けていたのだった。
さっきまでは智美さんも一緒だったけど、今は先輩と二人きり、である。
そう思うと、なぜかほっとして顔が緩んでしまう。
「ちょっ・・・・・」
いきなり先輩が吹き出した。
俺はびっくりして、先輩を見るといつもとは違う笑顔。
綺麗な笑顔・・・というよりは、大爆笑!?
無邪気な笑顔だった。
あ、始めて見た・・・。この人が腹抱えて笑うの。
その笑顔がなんだかやんちゃで、ちょっと可愛いい。
そんなことを考えたら、少し恥ずかしくなってきた。
邪心を払うように、俺は先輩に吹き出したわけを聞き出した。
「だ・・だって、顔変わり過ぎでしょ・・・・・」
そうなんだよ、この人、見てないようで意外に人を見てるんだ。
俺の顔がちょっと緩んだのをこうやって見逃さない。
本当に読めないよなあ。
だけどそれを言い当てられた俺はなんとなく恥ずかしくなってしまう。
「もしかして、智美のこと好き?」
笑いながら先輩がジョークを飛ばした。
いやあんた、智美さんが俺の先輩の彼女だって知ってるってこと、知ってるでしょ!?とつっこみたくなる。
が、ここは少し我慢。
「ち、ち、ちがいますよ!僕、智実さんの彼氏知ってますし!!」
「なーんだ、てっきりそんなことかと。だって、私と二人になった途端顔つき変わるんだもん」
「え!?そ、そうですか!?」
「うん、ちなみにバイトの時もずっとそうだよ」
やっぱり・・・・俺のことホントによく見てるんだな。
たったこれだけの時間で俺のいろんなことを見抜いているその洞察力。
先輩といるときに、特に意識して態度を変えているわけではない。
どっちかっていうと、先輩の雰囲気に飲まれてそうなってしまうというか・・・・なんて説明したら良いんだろう?
上手く答えられなくて、俺はしどろもどろになって答えた。
「いや、その、なんていうか・・・。先輩と一緒にいると落ち着く感じがするんです。緊張しないって言うか・・・・」
すると、先輩は「そうなんだ~」と言って、いつもの綺麗な笑顔で笑った。
先輩のこの綺麗な笑顔は無意識にいろんな人に振りまかれている。
俺にも向けてくれるけど、バイトのお客さんにも向けられているものだ。
いつもの笑顔も俺はいいと思うけど、さっきみたいな無邪気な笑顔のほうがもっといい。
他の人にもその笑顔を見せているんだろうか?
そんなことを考えていたら、ふとある興味が浮かんだ。
「先輩は・・・・・その、彼氏さんとかいるんですか?」
何も考えずにすぐ聞いてしまって、聞いたあとにちょっと後悔してしまった。
人のプライベートを突っ込む会話だったから、気に障ってしまっていないだろうか?
そこだけが気がかりだった。
「あれ?私言わなかったっけ。そういうのはないよって?」
すぐに返答されたその言葉はなんとなくそっけなくて、ちょっと気になってしまった。
だけど、少しチャンスだとも正直思った。
だって、この人の俺だけに向けてくれる笑顔が欲しいから。
「ねえ!!」「あの!!!」
あ、まずい。タイミングがかぶってしまった。
「阿佐君、先に」
先輩は俺に会話を譲った。
「・・・・・・。」
「どした?」
「・・・・じゃあ、僕と、買い物。いきませんか?」
「え?」
それを聞いた彼女のリアクションは本当に初心だった。
顔を真っ赤にしながらも、まあ、最終的にはOKしてくれたのだけど。
なんで俺は先輩を誘ったのか、自分でも勢いに任せてしまったけど、
別にこのときは彼女にしたいとか、そんな邪な心があったわけではなくて、
ただ、二人っきりで過ごして、この人の素をもっと知りたい。
そう思っただけだった。
*****