「城高 春です。こちらこそよろしくおねがいします。」
ジャージの彼女の名前は「城高 春」と言うらしい。
なぜ俺が彼女の名前を知ることが出来たかと言うと、2年生になってバイトを変えたからだった。
前は居酒屋でやっていたんだけど、なんだか飽きてしまって。
今度はスポーツクラブのスタッフとして働き始めることにしたのだった。
そこで出会った人といえば、頭がはげててなんだか偉そうな店長と・・・・
まさか、この間俺が「タイプだ」と感じたジャージの彼女。
ほんと・・・まじ、かよ?
「阿佐 慶太朗です。よろしくおねがいします。」
まさかこんなとこで出会うとは思わなくて、
思わず自己紹介の声が上ずってしまったような気がした。
だけど、まあある程度はバイトで「人前での仮面」を習得していたので、それなりにいい印象を持ってもらえたと思う。
そんな俺に対しても、彼女は素敵な笑顔で自己紹介をしてくれた。
超絶な美人というわけではないけど、でも綺麗で整った顔。
そこからの笑顔は本当にきれいで。
声は高すぎず、低すぎず。いい声だった。
その日はお客さんの入りも少なかったので、世間話をしながら、彼女は優しく仕事を教えてくれた。
「先輩、こうやればいいですか?」
「そうそう、阿佐君覚え早いねえ~」
からからっと笑う彼女。
彼女はバイトを始めて1年だというが、完璧な仕事っぷり。
電話の対応や敬語の使い方など、まるで社会人だ。
俺も国文学専攻としてある程度の自信はあったが、彼女の日本語はとても美しかった。
やはり彼女は体育科で、将来は体育教員を目指しているという。
なるほど俺の読みは当たったわけだ。
それでも、体育科の女といえば、なんとなくがさつなイメージがあったが、彼女には気品が漂っていた。
たぶんきれいな日本語とあの笑顔から来ているのであろうと俺は思う。
そのためか、お客さんからもよく声を掛けてもらっている。
かなり人気が高いようだ。
そういえばさっき店長が「うちのナンバー1だ」とかなんとか言ってたっけ。
だけど、そんなことは鼻に掛けないあの気取らなさは、今まで俺の周りにいた女とは違った。
だから話していると、その雰囲気につられて、自然と俺も気取らない口をきいてしまう。
普段ならば初対面の相手に対して、しかも女には当たり障りのない会話しかしないのに、
ちょっとした俺の気持ちとか、考えなんかがついぽろっと引き出されてしまう。
新しいバイトではもっといろいろな人とであった。
城高先輩と同期の体育科の智美さん。
最高に適当な「超ラテン系」
この人こそ、俺のイメージする「体育科女子」だ。
俺の研究室の先輩の彼女だってこともわかった。
それから、俺と同い年のまど香さん。
テレビでこの人見たことあるんだけどってぐらいの超有名フィギュア選手。
自分に厳しい人だけど、結構男で遊んでそうな雰囲気だった。
フィギュアの練習があるから、週1の3時間でしか出れないとのこと。
そりゃあ~すごい人だもんな、仕方ない。
あとは、2つ上の由佳子さん。
すごい美人だけど、この人もなんだかんだでいろいろ経験がありそうな人だと感じた。
だけととっても頼りになる感じ?姉御タイプである。
なにかあったら、この人に相談するといいアドバイスがもらえる気がした。
その中でも・・・城高先輩は本当に不思議な人だ。
つかめるようで、つかめない。
ある程度の人となりさえあまりまだ分からない。
逆に俺の素を自然と引き出してしまった。
そのことに俺は驚きを隠せない。
人前での「仮面」は結構完璧だと思ったのに、会ってその日に剥ぎ取られてしまったのだから。
だけど、
もっと先輩と話してみたい。
どんな人なのかを知りたい。
素直にそんなキモチになったのだった。
*****
<あとがき>
さて、ここからが「REVERSE EPISORD」の醍醐味ですね。
あの時慶太朗はどう思っていたのか、明らかになります。
春の慶太朗に対する表情と性格の評価について、
春「ふんわり」→慶太朗「仮面」
春「ブラック」→慶太朗「素」
と捉えてください。
するとすっきりするはず。