「えへへ、結構飲んだね~」
翌日の夜。
俺と真穂は近くの駅前にあるチェーン店の居酒屋に飲みに行っていた。
真穂は強い。
ある程度飲ませれば箍が外れるかと思いきや、俺のほうがぐらぐらしてきている。
酒は嫌いじゃない、が、今だけ酒を恨む。
「お前、強すぎ」
「そう?へへ、これでも結構テンションあがってきてるんだよね~」
にこっとしながら小首を傾げて俺を見上げる彼女。
まあ、確かにいつもの彼女ならこんな可愛らしい動作なんぞしないだろう。
だから、少々酒に酔わされていることは認める。
「なあ、これからどうする?まだ9時だろ?」
そう、俺には今日大事なことがあるんだ。
俺の気持ちを彼女に伝えること。
昨日の夜から、どういう風に切り出そうか考えてはみたけど、
なかなか上手い方法が考え付かなかった。
しかもよく考えてみれば、俺初めて告白するんだった。
いつも告白されてばっかで、いざしてみる立場に立ってみると、なんだかすげー緊張する。
大変なことなんだな、告白って。
18になって初めて知った。
「じゃーはしごする?もう少し落ち着いた店に移動しよっか?」
彼女がにこにこしながら俺にそう言った。
「あ、でも拓海の家に行ってみたい!」
え!?俺の家!?
いや、いいよ、いいんだけど、この状態は非常に危険だぞお前!!!
と心の中でつっこむと、彼女は更に続けた。
「改めてしっかり話したいこともあるし・・・・」
彼女にしてはか細い声でぼそっと言った。
だけど、酔った俺の頭では、その言葉の意味をしっかりと考えることができなかった。
とりあえず、俺としても2人きりのほうが話しやすいので、
彼女の申し出を承諾した。
*****
スーパーで最低限のものを買って、駅から割と近い俺の家に向かう。
「あ、そういえば俺んち結構汚いぞ」
「まじで!じゃあ入るまでに10秒上げるから、しーっかり掃除してね!」
今度は俺が彼女の冗談に笑った。
だんだん迫る決戦の時。
俺の鼓動も自然と高まっていった。
しばらくすると俺のアパートに着いたので、
彼女を玄関に待たせて、少し掃除をしてから中に入れた。
すると、彼女はうわーっと声を上げてはしゃいでこう言う。
「広くてきれいじゃん!」
「そう?ならよかった」
「うん、なんかモノトーンの家具が多くて、拓海って感じがする」
「そーか、とりあえずなんか出すから適当なところ座って」
俺は少し照れながら台所に向かい、コップやら皿やらの準備を始めた。
なんだか夢見まで見たようなシチュエーション。
酒も入っているし、とりあえず話せるような気がする・・・・
あと向こうの話ってのも若干気になるけど。
彼女から重大な話がある時ってだいたいいい話じゃないんだよな。
遊園地でのデジャブが俺を襲う。
だけど、もう俺のため。俺のために話をするんだ。
スーパーで買ったものとコップと皿を持って、俺は真穂のいる部屋へと向かった。
「なあ、真穂。お前さっき話あるって言ってただろ?なんだよ?」
俺から話を切り出した。
真穂は突然の話の振りにびっくりしたらしく、少し身をこわばらせた。
「拓海って優しいよね、絶対モテる」
「なんだよ、いきなりどうした?」
意外な話の論点に俺もびっくりした。
「だってさ、水香とか志季とか先輩とかみんな言ってるよ、拓海いいね~って」
真穂が唇をすこしとがらせて言った。
なんだ?お世辞?
「そんな俺ってモテてるのかよ、そりゃー知らなかったぜ」
とりあえずそんな風におどけてみる。
というより、しっかり話したいことがこれ?
話の論点が見えてこない。
「てか、お前さ、彼氏居るのにだめだぞ!男の部屋にきちゃうとかさ~」
冗談めいた風に話を少しずつ俺のペースに持って行こうとする。
てか、俺なんとなく話がワンパターンになってきてないか?
「うん、その話なんだけど・・・・・、」
お、なんかのってきたな。
なんだか新しい展開でもあるのだろうか。
というのも、彼女の顔が急に曇り始めたからだ。
「私、実は高校の時からずーっと彼と別れたかったの」
ほう、と俺はうなずく。
「それで、皆に聞かれた時もいないって話した」
成程。そうなれば彼女の行動に関しても理由が分かる。
ただ重要なのは・・・・
「なんで別れられないの?」
そう、そこが重要だ。
別れられないとか言いながら、実は自分も向こうに執着してたりとか。
そういうのも結構あるから。
「別れ話をしても話が通じないの。いつもずーっと電話かかってきて、一週間に一回は私の家に来るし・・・・・」
「別れ話してる時に相手に対して優しくしてない?」
俺は結構厳しく彼女につっこんだ。
なぜ彼女が彼と別れられないのかを知れば、
もしかしたら俺にもチャンスがあるかもしれないと思えたからだ。
「してないしてない、結構ひどいこと言ってるんだけど、向こうが別れないの一点張りでさ、もうお手上げ状態」
そうかーそういうことがあったんだな。
俺は彼女に同情した。
きっと向こうの彼氏は真穂に執着してるんだな。
全く話が通じない状態ってある。
俺もそんな彼女がいたときもあった。
じゃあ・・・・・話は至ってシンプルじゃないですか?
「じゃあさ、彼氏作ればいいじゃん」
そう、そうやって事実を突き付けてしまえば、簡単にあきらめがつく。
彼女は「できればいいんだけどね」なんていいながらおどける。
「・・・・俺じゃ、ダメ?」
「え!????」
ついに言ってしまった。
しかも案外さらっと言葉が出てきてしまって俺自身びっくりした。
顔がきっと真っ赤だ、真っ赤に違いない。
恥ずかしすぎていろんなところから火が噴きそうである。
暫く無言が続いた。
そういえば、俺はついに気持ちを言えたことで満足していて、彼女の答えまでに意識が向いていない。
彼女はこんなこと俺に言われてどう思うだろう。
だってさっきまで負け戦だって分かってたんだし仕方ねえ。
だけど今になって欲望が生まれてくる。
「うん」って言ってほしい。
少し経って彼女が口を開いた。
「・・・・・私と付き合ってくれるの?」
「・・・・・ばーか。じゃなきゃ、こんなこと言えねえよ」
「・・・・・じゃあよろしくおねがいします。」
すこしはにかみ、しおらしく彼女はこう答えたのだった。
その答えを聞いた瞬間、俺は彼女をぎゅっと抱きしめた。
痛いよって、って笑いながら言う彼女を無視して、俺は耳元で囁いた。
「大好きだったんだ」
「実は私も」
生まれてはじめて、本当に大切な人に出会えた気がする。
*****
<あとがき>
おわったー!!!!!!!!!!!!!
そんなわけで見事に結ばれたよ、よかったね拓海!
実は両想いだったんだよ!
恋はハプニングとタイミングが大事と言いますね。
真穂が拓海に惹かれる描写というのはありませんでしたが、
拓海視点なので、そこはあえて書きませんでした。
ここで簡単に解説を加えると、
高校の頃からの彼氏と別れたい→でも別れられない。
で彼氏を作ってしまえばいいんじゃないかと考えたわけですね。
拓海自身も基本的に社交的で、女子にも男子にもモテるので、
真穂も拓海の自然な魅力には惹かれてはいました。
そこに宅飲みでの「お前とじゃなきゃ(遊園地)いかない」宣言で意識し始め、
一緒にデートをすることで男性として惹かれていきました。
そしてデートの最後に彼氏の話題を出したのは、
「実は別れたい」という悩みを打ち明け、そこから付き合ってほしいと言いたかったんです。
しかし、上手に話を進められず、彼にもやもやを残す結果となってしまいました。
そこでもう一度飲みに誘って、自分から告白をする予定でしたが、
彼のほうが先走った、という流れです。
なんか読みなおすと、真穂が拓海に「つきあって」と言わせようとしているように読めたので、ここは解説で補完。
文章能力が・・・・・ない!