eploge あすへのとびらをひらくとき
.

「ねえねえ、拓海、そういえば…誕生日っていつ?」

付き合ってから後数日で1ヶ月経とうとしているカップルとしては、今更?と言う質問をされた。
まあ…よく考えてみたら俺も彼女の誕生日は知らなかった訳で。

「7月21日」

「うっそ!記念日じゃん」

「え?」

「付き合い始めてから丁度1ヶ月の日のことを俗にそう言うの!」

日曜日、部活が終わった後。
俺らは帰路を共にしていた。

付き合って1ヶ月よりも何よりも、まだお前しっかり元彼と別れてねーじゃんか。

と言っても、彼女が元彼と別れるためのアクションを取らなかったわけじゃない。
電話で何回か話す様子を聞いたが、全く持って話のキャッチボールが出来ていない。
……というか、聞き入れていない。
彼女が別れたがっているのを知っていて、わざと聞き入れないように振る舞っているように俺には思える。

「………ん、てことはあいつとの話し合いの日が拓海の誕生日じゃん!」

「そうそう」

「そうそう、じゃないよ。何で言ってくれなかったんですかー?」

真穂がすこしぶーたれるから、俺は少し笑ってしまった。
それで更に彼女をぶーたれさせてしまう結果になる。

元彼との話し合いが記念日だったことは、話し合いの日にち決定の時点で了承していたが、更に俺の誕生日。
彼女にとってはあまりよろしくないようだ。

「だって別に気にならなかったし」

「私が気にするんですけど!別の日にすればよかったー」

口をとんがらせて抗議をする彼女が素直で可愛い。
変に俺の様子を伺って駆け引きなんてもってのほか。
やっぱり彼女は今までの女の子とは違うよな。
なんてしみじみしてみる。

「じゃ、速攻で話し合いを終了させる方向で」

と言ってから、俺の手を彼女の手に当てた。
俺らの「手を繋ごう」の合図。
少し小さい彼女の手と、大きい俺の手。
どちらともなく手を繋いだ。

まあそんなわけで、電話では埒があかないので、直接元彼をこちらに呼んで、別れ話をする予定だった。
と言っても、話し合いをするという旨は伝えていない。
ただ真穂から、「会おう」とだけ言ってある。
警戒されたらこちらとて困るしな。

「うち、今日も来るだろ?」

「もちろん!ごはん、なにがいい?」

「肉じゃが!」

愛おしいこの彼女も後少しで彼の呪縛から逃れられる。

直接三人で話をすればなんとかなるだろ。
と俺は悠長に構えていたのだった。


***********************


ピンポーンと真穂の家のチャイムが鳴る。
ついに彼氏がやってきた。

始めて見る彼女の元彼は、
180はあるだろう身長に、短く立てている髪の毛。
ひょろひょろとした俺に比べるとかなりがっちりしていて、高校のバレー部のエースだったことも伺える。
すごくたくましい人で、俺とはまるで正反対。

すげー強そう。ってのが俺の第一印象。

一方彼は、俺を見た途端訝しげに顔をしかめた。
ひしひしと感じる敵意。

さしずめ、誰だこのひょろいやつ。って感じだろうな。

思わず目を背けそうになるが、ここで負けるわけにはいかない。
俺はしっかりと彼を見つめ返した。

「誰?コイツ?」

開口一番、挨拶もなにもなく彼は真穂に尋ねた。

「私の今の彼氏」

さらりと彼女は答える。
彼の目の色が突然変わった。
俺への敵意は確実に強くなっているに違いない。

「なんだよ…どういうことだよ。」

「どういうことも何も、こういうことだから私と別れて…って何回もいったよね?」

真穂がため息まじりに彼に告げる。
勘弁してよねと言わんばかりに。

「お前、オレをずっとだましてたんだな……この悪女め!!」

ちょっ、それは言いすぎじゃと思わず口を挟みそうになったが、真穂の目は「だまってて」と言っている。
確かに俺まで話に参加したら余計ややこしくなりそうだ。
俺は極力無言で通すことにした。

「いや、だから高校卒業する前からずっと別れたいって言ってたでしょ?」

「………」

「いい加減現実を見て。」

「いやだ!真穂は、お前はオレのものだ!」

「これが現実なの!」

真穂はいきなり、俺の頬を両手で包み込むと、自らの唇を俺の唇に当ててきた。
いきなりのことで俺もびっくりしたが、とにかく彼女に従う他無かった。
彼女の唇はいつもに比べ、すこし冷たくて……震えていた。

ああ、彼女も怖いんだろうなってそう思った。

「…分かった?分かったらさっさと別れて」

死刑宣告……だろうな、彼にとって。
しかしこれが彼の怒りの矛先を変えた。
彼の目がこっちを向き、真っ直ぐに俺の目を捕らえていた。

「おい、お前!どうやって俺の女騙しやがったんだ?あ?」

俺は答えない。
言わせとけば気が済むだろ。

彼も本当はどうするべきか分かっているのだろう。
ここまで見せつけられて、彼女の真意をはかりとれないのなら、本当におかしい人だ。
しかし、フラれたということは少なからず人のプライドに触る。
そのプライドを誇示するためか守るためか……
彼は俺を罵り続ける。

「お前みたいなひょろひょろした男になびくようなやつじゃないんだよ!真穂は!」

「……」

「……これ以上拓海のこと悪く言うな筋肉バカ」

はあっ!?
俺は耳を疑った。
そんなに乱暴な言葉を使う人では無かったはずだが……
びっくりして横を向くと、まるで般若のような顔をした真穂がいた。

「拓海のほうが筋肉バカのお前より百倍ましだ。いい加減人の話を聞け!とっとと別れろ!」

ついにこいつでもキレたか。
というか、普段の彼女からの変わりようにびっくりしすぎて、俺は彼女から目を逸らすことすらままならない。

彼も俺と同じようにぽかーんとしている。
どうやらこの姿は彼にも見せたことが無かったようだ。

「で?別れてくれるんだよね?」

彼もついに諦めがついたのか、
激変した彼女に驚いたのかは定かではないが、
ついに首を縦に振るのだった。


****************************

「真穂、お前なんだかすっげーな」

「へ?どして?」

彼を家から追い出してから数時間後。
夕食を共にする俺と彼女の姿があった。

「いや、普段からは想像できないキレっぷりで」

「い…いいじゃん、分かれられたんだしっ!てか、あれは相当キレないとああならないから!」

と耳まで真っ赤にして恥ずかしがる彼女。
いつもと変わらない。
しかし怒るとここまでになるなら、俺も下手なことはできねぇ。

「ま、とにかく晴れて正式に俺の彼女になったってわけで…」

「…な、なんですか?」

「風呂一緒に入ろ」

「え?」

彼女がこの後相当抵抗したことは想像に固くないだろう。
まあ、最後にはしっかり解き伏せましたが。

なんがかんだでありがたいバースデープレゼントを2つもらいました。

え?何と何かって?
そんな野暮なことは聞かないでくれよ。



HAPPY END!!!!

THANK YOU!!!!