5~きみのつよさはかりしれず
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「真穂!頑張って来いよ!」

最上級生の引退試合直前。
俺は彼女にそう声を掛けた。
俺なりの精一杯の応援に、彼女はただ無言でこくりと頷く。
だけどその顔は不安で一杯、と言うよりは、闘志の火に燃えている顔。

あいつらしーや。

彼女は良い意味で堂々としていて一年らしくない。
堂々さが行き過ぎて、ミスプレーもたまにあるけど、
まあ、変に弱気になるよりか見ていてすっきりする。


俺はもちろん一年坊主なので、レギュラー所かユニフォームさえもらえない。
一年なんて大体そんなもんなんだけど、
そんな常識を打ち破った彼女が羨ましかったりする。


二週間前に取り付けた遊園地の約束。
結局まだ日にちは決まってない。
とりあえず大会に集中したいから、
大会が終わってからにしようというのが彼女の弁であったからだ。
俺としては、出場しない大会よりもデートの約束のほうがずっと大事だったり。
ま、そこは彼女の意思を尊重するべきなのでそうしたけどさ。


試合が始まり、彼女がコートの中を縦横無尽に走り回っていた。

いつもの無駄の少ない動き。
まだ荒削りではあるけど、大学でも充分に通用している。

得点を取って喜ぶ姿も、ミスをして悔しがる姿も、
まるで小動物のようで見ていて面白い。

ほんとは女子の試合を応援しないといけないのに、

的確なコースのスパイク。
計算されたフェイント。
時にはレシーブでミスしたり。

結局俺の視線はずっと真穂を追っていて、それ以外が疎かになっている。

最後のホイッスルが鳴り響き、試合が終わったとき、
彼女は引退する先輩よりも早く涙を流していた。

ばーか、はやいっつの。
てか、なんでお前が泣くんだよ。

俺は思わず笑いそうになってしまったと同時に、
どこかで愛らしさを感じていた。

上辺っつらでニコニコしている女たちとは違う。
喜怒哀楽が豊かだ。


この二週間。
部活で彼女のプレーをみたり、
メールしたり、話したりしているうちに、
俺はうっすら自分の気持ちに気づき始めていた。

そして、今彼女の涙を見て、確信へ変わった。



……俺、真穂のことが好きだ。



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