「真穂!頑張って来いよ!」
最上級生の引退試合直前。
俺は彼女にそう声を掛けた。
俺なりの精一杯の応援に、彼女はただ無言でこくりと頷く。
だけどその顔は不安で一杯、と言うよりは、闘志の火に燃えている顔。
あいつらしーや。
彼女は良い意味で堂々としていて一年らしくない。
堂々さが行き過ぎて、ミスプレーもたまにあるけど、
まあ、変に弱気になるよりか見ていてすっきりする。
俺はもちろん一年坊主なので、レギュラー所かユニフォームさえもらえない。
一年なんて大体そんなもんなんだけど、
そんな常識を打ち破った彼女が羨ましかったりする。
二週間前に取り付けた遊園地の約束。
結局まだ日にちは決まってない。
とりあえず大会に集中したいから、
大会が終わってからにしようというのが彼女の弁であったからだ。
俺としては、出場しない大会よりもデートの約束のほうがずっと大事だったり。
ま、そこは彼女の意思を尊重するべきなのでそうしたけどさ。
試合が始まり、彼女がコートの中を縦横無尽に走り回っていた。
いつもの無駄の少ない動き。
まだ荒削りではあるけど、大学でも充分に通用している。
得点を取って喜ぶ姿も、ミスをして悔しがる姿も、
まるで小動物のようで見ていて面白い。
ほんとは女子の試合を応援しないといけないのに、
的確なコースのスパイク。
計算されたフェイント。
時にはレシーブでミスしたり。
結局俺の視線はずっと真穂を追っていて、それ以外が疎かになっている。
最後のホイッスルが鳴り響き、試合が終わったとき、
彼女は引退する先輩よりも早く涙を流していた。
ばーか、はやいっつの。
てか、なんでお前が泣くんだよ。
俺は思わず笑いそうになってしまったと同時に、
どこかで愛らしさを感じていた。
上辺っつらでニコニコしている女たちとは違う。
喜怒哀楽が豊かだ。
この二週間。
部活で彼女のプレーをみたり、
メールしたり、話したりしているうちに、
俺はうっすら自分の気持ちに気づき始めていた。
そして、今彼女の涙を見て、確信へ変わった。
……俺、真穂のことが好きだ。
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