「ううっ…気持ち悪ぅ」
部活の新入生歓迎会。
初めての酒でわくわくしてたんだけど……
呑まされるわ呑まされるわ…
さいっこーに頭がぐわんぐわんで気持ち悪ぃ
どうも新入生ってこういう立場らしい。
誰とは知らない女の先輩が、吐いたらすっきりする、と教えてくれたので、俺は今トイレに向かう途中だ。
「うわぁっ!」
誰かにぶつかった気がして、前を見ると……この間、練習中に俺が目を留めた例の彼女だった。
彼女もだいぶ呑んでいるらしく、足元が覚束ない様子だ。
「あ、すいません」
俺はなんだか恥ずかしくなって顔を背けてしまった。
さっきから頭がおかしい。
「きみ、一年でしょ?私も一年だから、タメでいいよ!」
きれいなソプラノの声が聞こえてきた。
ていうか意外な展開。
彼女が…一年?タメ?
「……あんた、一年だったのか?レギュラーなのに?」
あまりにも意外過ぎて、思わず彼女に尋ねてしまった。
「へへっ、まーね!私、真穂。上坂真穂。きみは?」
「俺は…高田拓海」
「ポジションは?」
「ら、ライト」
「私と一緒じゃん!」
彼女はからからっと笑った。そして、よろしくね、拓海。と手をさしのべた。
俺は何かに惹かれるようにその手に触れ、握り返した。
バレーをやっているはずなのに、身長の割には小振りで、柔らかい手だった。
(うっ…まずい、吐く!)
と、突然吐き気が頂点に達したので、俺は彼女をはねのけ、トイレへ直行。
彼女がびっくりしている様子だったが、それを気にしている余裕はなかった。
数分後、全てを出し切った後、もう彼女の姿は消えていた。
*****
次の日。
俺は二日酔いでベッドから出てくることすらままならなかった。
あの後、男子キャプテンの先輩に絡まれ、めちゃくちゃに呑まされて正直記憶がない。
どうやって家に着いたかも全く覚えていなかった。
それゆえか、彼女―上坂真穂の笑顔と手の感触が色濃く記憶に残っている。
彼女がどんな人なのかもっと知りたい。
俺は自然とそんな気持ちになった。
*****