12月 少女の純真、少年の純心
.

「うわああーすごーい」


真穂が駅前のクリスマスツリーを見上げて声を上げた。
今日は12月24日。
そう、クリスマスイブなのだ。
ただ、お互い受験生であることに加え、過ごす人もいない。
そんなわけで、学校の自習室で一緒に勉強した後、駅前をふらふらしているのだった。
どうせ帰るところも一緒だしね。

「あ、親父から電話だ」

ポケットがブルブルと震える。
携帯の画面を確認すると電話の相手は親父だった。

「あー親父ぃー?」

『おう拓海!俺だ!すまんが・・・今日に限って仕事が溜まってしまったんだ。わりーけど遅くなるから、お前ら2人でクリスマスの宴を始めててくれ!!!』

「いつも仕事してねーからじゃん」

『あ、ばれた?とりあえず、ケーキとチキンだけは買っておけよ!酒は俺が買ってくる!』

「わかった。じゃーぼちぼちやってるわ」

いつもの親父の仕事しない癖が悪い方向に出た。
今日のクリスマスは親子3人水入らずで過ごすとか豪語してたのに・・・・
まったく、ちょっとは頭使ってくれよなーなんて思ってみたり。
まあ、あいつのことだから予想の範疇だけどな。

「父さん何だって?」

真穂が聞くので、俺はさっきの会話の内容を伝えた。
すると、彼女も妙に納得した顔。
ですよねー俺らの親父だもんな。

「じゃあ、ケーキとチキンを買って帰るか」

「シャンメリーもね!」

「お前、酒買ってくるって親父言ってたぞ?」

「今飲んだら脳細胞が死滅する!受験によくない!!!」

まあ確かにセンター試験前一カ月を切ったからな。
結局俺も真穂も医学部を受験することにしていた。
真穂は前から医学部を考えていたらしいが、俺としてはかなり苦渋の選択であった。
まず第一に、母子家庭である俺にとっては金銭的な負担が大きいこと。
第二に、まだ将来のビジョンがはっきりしていないのに、医者を志していいものかということ。
第三に、これからの生活もはっきりしていないこと・・・・などなど。
まあ金に関してはお袋からも聞いていたが、
医学部に俺を行かせるぐらいの余裕があるみたいだし、奨学金もあるしね。
やっぱ一番大きかったのは、将来に対して積極的な真穂を身近で見ていたことだった。
あいつの医者になるっていう野望を聞いてるうちに、
俺も医者になろうって思ったんだよな。

しかし、俺は真穂に比べてそこまで賢くないから、センターの結果次第ではどうなるか分からないから、頑張らないとな。
まあ、ダメなときはそのときだ!なーんて開き直ってたりする。

そして、親父と京子ママさんは12月初めに正式離婚をした。
まあ、随分前からいつかこうなるって話だったし、そこまで大事ではない。
真穂に関しても、別居発覚時に一番のショックを受けていたので、精神的にこたえることもなかったようだ。
俺に関してはもう我関せず。
というか、俺のせいだってずっと考えてたんだけど、

「お前の命否定になってしまうので、そんな考えはやめろ」

と幾度となく親父に諭されたので、もう何も考えないことにした。

俺には家族がいるし、友達もいるし。
俺は俺だからもう自分のことは責めないことにした。

ちなみに真穂の親権は親父、恵美ちゃんの親権が京子ママへ行き、姉妹は完全に離された。
まあ、これも予想の範疇だよな。
だけど、真穂が京子ママや恵美ちゃんに会うのは比較的自由にできるらしく、12月中に何回か会いに行ったようだ。

「よし!拓海!とりあえずスーパーにいくよ!!!!」

「OK」

俺たちは寒空の中自転車を走らせた。

*****

「よし、じゃあ親父いないけど、メリークリスマスってことで!」

拓海は酒、私はシャンメリーで乾杯した。
ていうか結局酒かよ!脳細胞死滅するよ!?
父さんから電話をもらったあと、私たちは買い物を済ませ、宴を始めることにしたのだった。

「結局兄妹2人で過ごすクリスマスかよー」

「まあ、いいんじゃね?食べよ、おなかすいた」

テレビを見ながらむしゃむしゃと2人でチキンを食べる。

「なあなあ、真穂、お前男つくんねーの?」

暫くして、兄が酒をごくごく飲みながら私に訪ねてきた。
またしょうもない質問をしてくる。
いやだってさ、作るもへったくれも今受験じゃね?
勉強大事じゃん。違う?
とか思っちゃうんだけど。
そんな考えを私は素直に拓海へ伝えた。

「だって今受験じゃん」

「もしかしてお前男に興味ないの?」

「いや、ないわけじゃないけど、今やらなきゃいけないことは違うでしょ?大学いったらでいいや」

「お前、医学部ナメんなよ、授業死ぬぞ?作る暇ないぞ?」

「じゃあどーすれっていうのよ?」

ていうか・・・・もしかしてコイツ酔ってる!?
だんだんと呂律が回らなくなってきてるし・・・・。
大体こんなしょうもない話題を振って来る時はそんなときなんだよな。
はあーあ・・・めんっどくさあ・・・。

「俺、寂しいんだけどどうすればいい?」

拓海が顔を赤くして話す。
あー、かなり出来上がってるな。
酒に酔うといつもこうだ。
あー、弱いくせに飲むからこうなるんだよ。
っていっても・・・・もうすでに3本は行ってるんですけどね。

「はあ?お前はまずその性格直せば女の一人や二人できんじゃないの?」

酔っている兄に対して容赦ナシに私は本音を述べる。
まーいつも容赦ないと言われたらそこまでだけど。

「えー、めんどくせー」

「じゃあきらめろ」

「やだー、真穂相手してー」

「は!?ちょ、相手ってどんな・・・・」

いや、この展開はなんっかデジャヴを感じるぞ?
あ、そうそう、夏休みに飲んだ時もたしかこんな甘え方を・・・・・
って!?こう冷静になっている場合じゃない!!!
拓海が妙に甘えた顔して私まで近寄ってきているううううう!!!!!
ああああ、こっちくんなこっちくんな!!!

「真穂~ちゅーしたい」

「いやいやいやいや!!!!無理無理!!!!あんた私の兄でしょうが!!!」

私の体を抱きよせて力を込めてくるんですけど!!!!!
アフォか!!!!!
無理無理無理。
じたばたして抵抗するも、意外と兄の力は強く抵抗出来ませんどうしたらいいですかお父さん。

「拓海ぃぃぃぃぃ!!冗談よしてほんとに!!!!」

「冗談じゃないもん。真穂かわいいもん。」

ちょっとオカマ口調になってる時点で君はおかしいから!!!
ああ、もうタコ口で迫るのやめて!!

「恥ずかしがっちゃだーめ」

「だめじゃねええええ!!!!」

あ、ちょっと体を手でさすったりもんだりするのやめろ!!!
もう知らない!!!!ふざけんな!!!!!

「思いっきり歯を食いしばって死ねぇぇぇぇ!!!!!」

自由になった左手で、思いっきり拓海の頬を殴り飛ばした。

「うおっ!!!!!」

兄は私の体の上で気絶していた・・・・・。
ほんとしょうもねえ・・・・・。

*****

「あれ?なんで俺のほほこんなに腫れてるの?」

目が覚めると、妙に痛い左の頬。
てか?なんで俺こうなってんの!?
たしか、酒飲んで・・・・真穂と話してて・・・・一体どうなってんだこれ?

「お前ほんとになんも覚えてないんだね・・・ため息でるわ」

真穂があきれた顔で俺を見る。
いや、なんかあきれられることしたの俺?

「なんも覚えてないんだけど・・・俺なんかした?」

「・・・・お前妹に発情してたぞ」

え!??
なにそれ?俺は真穂の話を聞いて頭が白くなった。
は・・・発情!?
ってことはもしかして・・・・・

「『真穂~俺チューしたい』って言って私に迫ってきたぞ!?」

「私が一生懸命抵抗したら『はずかしがっちゃだめー』とか言って更に迫ってきたぞ!?」

「で、いろんなところ触ったり揉んだりし始めたぞ?」

嘘だ・・・・・嘘だあ・・・・・・・
真穂の顔が最早般若を通り過ぎてなにか別なものになっている。
あまり目を会わせたくないんだけども。

ううう・・・・なんか言われてみればなんとなーく記憶にあるようなないような・・・・
気持ちよかったようななんというか・・・・
だけど、だーけーどーなんで俺が妹にそんなことをせないかんのだ・・・・
俺・・・相当寂しいんだな・・・・恐ろしき酒の力。

「何?謝ってもくれないわけ?」

「・・・・・すいません」

「酒自重しろまじで」

「・・・・・すいません」

「大学になってから酒を飲め」

「・・・・・すいません」

いやー申し訳ないことをしたね。
うん。だって記憶ないんだもんしょうがないじゃん。

しかし妹は3日間口をきいてくれなかった。
まあ、当たり前か。

*****

「さて、重要な話があるんだが・・・」

イブの3日後、親父が話を切り出した。

「・・・・・・・今、菜穂子と再婚しようかどうか迷っている」

「「はあ!!??」」

親父のドッキリはいつも突然に・・・・・
このことについてはまた次回、ゆっくり話をしていこう。

*****

NEXT

BACK