1月 少年の新年、少女の新年
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「受かりますように受かりますように受かりますように・・・・」

「アホ、願い事を口に出したらかなわないんだっつの!」

一月一日、元旦。
新年早々、拓海の頭を力いっぱい殴った。
いってえ!という声を思いっきり無視し、自分の願い事を祈った。
そう、受験成功。
この時期、普通の高校三年生ならば、この願い事が第一に上がってくるはず・・・・・なんだけど。

私が祈るのは・・・・家族円満。

クリスマスの三日後、父が口にした言葉のせいである。

『俺、菜穂子と再婚しようと思っているんだ』

自分の父親に向かってこんなこと言うのもどうかと思うんだけど・・・・正直アホだ。
ただでさえ、異母兄妹の私たちがW受験だってのに、再婚だと!??
お前はホントにどこのアホかと小一時間問い詰めたくなる。

だけど、この父の行動からして、一つ推測できることがある。
それは・・・・・・


*****


「なあ、真穂。お前は親父の再婚をどう思う?」

初詣の帰り道、チャリをこぎながら俺は真穂に尋ねた。
すると、いつもよりも妙に真剣な顔をして真穂はこう答える。

「私は・・・父さんがほんとに好きだったのは、母さんじゃなくて菜穂子さんだと思ってる」

キキー!!
俺は驚きのあまり思わずチャリのブレーキを思いっきり握ってしまった。
もちろん、自転車はいきなり止まってしまい、俺は前につんのめってしまうのだが・・・・。
問題はそこじゃなくて・・・・・。

「マジ!??何で!!??」

「バカ、お前そんなことにも気づけなかったのか?どう見ても分かるじゃん」

「うっせーな」

「いや、冗談じゃなくてほんとに。じゃないと、菜穂子さんと父さんが再婚する理由がない」

そうばっさりと真穂に言われて考えてみると、そんな気がしてきた。
まあ、この8ヶ月近くは、そんな出来事に慣れ過ぎてしまって、
ぶっちゃけ深く考えるのさえめんどくせーんだけどな。
だけど、本当にこの俺たちの家庭を見ると、昼ドラチックにしか思えねえ・・・。
もっと平和でいたかったなあーなんて俺の声はカミサマには届かないだろう。

・・・・まあ、俺カミサマなんて信じてねーけど。

「菜穂子さんが好きじゃなきゃ、拓海の面倒をここまで親身になって見なかっただろうし。
それに、私の名前。菜穂子さんの『穂』の字が入ってるでしょ。
ほら、よくドラマなんかであるじゃない。隠し子の名前に自分の本当に好きな人の名前の漢字を使うって言う・・・・」

その名前のくだり、こないだ昼のドラマでやってた内容そのままじゃねーか。ってツッコみたい。
しかし、いつ鉄拳が飛んでくるか分からないから、敢えて黙っておく。
真穂は最近、学校が自由登校であることをいいことに、昼ドラと韓国ドラマに嵌っていた。
お前受験前になにやってんだよ、って感じなんだけど。

・・・・どう考えても、そこら辺の影響だろうな。

一人、心の中で寂しくツッこんだのだった。


*****

我らが父親が再婚を宣言しようがなんだろうが、センター試験の日は変わらない。
私たちは、近くにある大学の受験会場に向かっていた。
徒歩で10分とかからないので、兄と二人でとぼとぼと歩く。
まあ、その再婚宣言した父親が働いてる大学病院がそこなんだけどね。

ただし、徒歩10分というのは、あくまでも天候が良いときの参考記録であり、
今日のように、雪ががっつり積もったときには、その記録はほとんど当てにはならない。
しかも、それがアイスバーンになってたりして、つるつると滑るときには尚更だ。

「って・・・うおぁ!!滑った!!!」

兄はさっきからそのつるつるの餌食になっており、何度も転びそうになっていた。

「うわー、試験前に滑るとか言うなよー」

「あ、わりい・・・だけどよ、これじゃしょーがねえだろ?つるつるだぜ?」

そう言いながら、またつるっと滑っている。
ふ、まだまだね。
雪道の歩き方にはコツがあるのだ。
それを兄は知らない。

「私はさっきから全然平気だけどね、筋肉が足りないのよ筋肉が」

「絶対関係ねえ」

「とにかく、試験に滑るのはあんただけで結構、私まで巻き込まないでくれる?」

「ったく、俺のほうが志望校あぶねーんだから、滑るんならお前滑れ」

お互い、血のつながった父の跡を追うように医学部を志望していたが、
模試の結果からして、少し危ないのは兄のほうだった。
まあ、だからといって私が油断しているわけでもないけど・・・・

いつものようなケンカ(もうじゃれあいレベル?)を繰り返しながらも、
試験開始30分前にはキャンパスに着くことが出来た。
ここからは兄妹といっても、苗字の関係から会場が分かれることになる。

「じゃあな、真穂」

「うん、ちゃんと兄妹で医学部いくから、ヘマするなよ」

「もちろんだ、お前こそヘマすんなよ!」

お互い拳をぶつかり合わせて、エール交換をしてから、それぞれの会場に向かった。


ああ、カミサマ。
いるならば、この不幸な兄妹に力を分けてください。
親の嫉妬と愛情のドロドロに巻き込まれて、複雑な兄妹関係になってしまったこの兄妹に。
こんな重要な時期に、父親が再婚するとか訳わかんないことを抜かしたこの兄妹に。

どうかよろしくお願いします。

普段なら絶対信じていない神様にも祈りたいぐらい、私たちは本気であったのだった。

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