日常
 

今日も朝日が眩しい。
街頭の温度計はもう既に29度と表示されている。
きっと今日も暑くなるだろう。
そんな海沿いの通りを、ぐんぐんと猛スピードで走り抜ける自転車が一台。
乗り手はセーラー服をなびかせた女子。
そのスピードゆえか、ベリーショートの髪の毛すらも風になびいている。

彼女の名は内海千夏。
地元の高校に通う高校2年生だ。

「遅刻するぅーーー!!!!!」

朝から強面のサーファー達がたむろするような海岸通り。
外からくる観光者ならば、少し臆してしまうようなところだろう。
しかし、彼女は動じずに自転車をこぎ続ける。

今の時間は午前8時59分。
学校が夏休みの今、水泳部に所属している彼女の部活が始まるのは午前9時。
・・・・・どう考えても遅刻である。

どうせ遅刻するならさぼってしまえ!!
と、一度は考えた千夏だったが、明後日には大会が控えているためそんなわけにもいかない。
しかも、「そんな根性ナシなことをしてどーすんだ!!」と母親から渇を入れられたので、
そんな目論見はどちらにしろ打ち砕かれてしまったのだが・・・。

(お母さんのバカ。ちょっとぐらいいいじゃんか・・・)

思い出してはぶーたれてしまうのだが、家では母が法律と言ってもよい。
そんな母に朝からはむかうのは非常に勇気のいることだった。
彼女の家では海の家を営んでおり、伊達に荒くれもの達を相手にしてはいない。

(後1分!?絶対無理!!!!)

そう頭では分かっていながらも、早く学校に着くために、千夏は自転車を猛スピードで漕ぎ出すのだった。


*****


「うーつーみー・・・お前何分遅刻だー」

「すいません」

学校に着いてから、千夏はダッシュで部室へ向かい、その後猛スピードで水着に着替え、さらに猛ダッシュでプールに向かった。
もう時計の針が9時10分を指している。
少し気分が萎えるが、早く行くに越したことはない。
プールサイドに着いたときには、待ってましたと言わんばかりの顧問から、お叱りを受ける羽目になってしまった。

「今、9時15分ねー」

「すいません」

「あさって大会だぞー」

「すいません」

「ったく、お前イイセンいってるんだから、ちーとは気合いれろよ気合」

「はい」

「声が小さい」

「はいっ!」

そこまで話をすると、顧問は千夏に練習へ早く合流するように促した。
水泳は個人種目の競技だからか、千夏の学校の水泳部はそこまで遅刻や欠席に目くじらを立てない。

(よかったー、あんまりじめじめ言われなくて・・・・)

ひとつ、ため息をつきながらプールサイドで念入りにストレッチをしていると、
グラウンドの野球部が、熱に熱のこもった練習をしている様子が見えた。

どうも、今はノックの練習をしているらしい。
顧問が打ったボールに対して部員が飛びついていた。
夏のこの季節は日差しも強く、かなりキツいだろうに・・・。
それでも部員達は一生懸命に顔を真っ赤にして練習に励んでいた。

(あ、航平だ)

一生懸命練習している部員の中に、知り合いの顔が見えたので思わず目で追ってしまう。
そう、彼は千夏の幼馴染、永田航平。
航平とは家が近所で、幼稚園から高校まで、かれこれ15年ぐらいのお付き合いである。
同い年なのに、いつも航平は千夏の面倒をみるもんだから、まるで兄妹だと周囲に言われる始末である。
いつも千夏はちびっ子扱いで、いい思いをしていない。

しかし、こう一生懸命練習に励んでいる航平を見ると、他の部員よりも動きがいいのが分かる。
彼は小学校のリトルリーグから野球をやっていて、本人いわく、かなりいい感じのプレーヤーらしい。

「さて、私もがんばるか」

航平が必死になっている姿を見ると、やはり自分も頑張らなければという気持ちになる。
体が温まってきたのを感じ、千夏は練習に合流するため、シャワーを浴びに行くのだった。

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