ep11  the X-day
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阿佐君とのデート当日の朝。
朝食をもりもり食べながら、私はふと気になったことがあった。

ー果たして、彼は私のことをどう思っているのだろうか?

そういえば今まで私は、自分の気持ちの整理をするだけで精一杯で、阿佐君の方まで考えが至らなかった。
当然私の希望としては、好いていてもらいたい、と思う。
だけど、彼にとって私はただのバイトの先輩であるだけかもしれない。
というか寧ろその可能性が大きいのでは?と思う。

だって、私といえば、スポーツをやっていて並の男よりも身長が高いし、料理も得意じゃないし、
洒落っ気なんてほぼゼロだし、色気ないし、がさつだし、気は利かないし、ゲーム・ネット命だし、なによりも女っぽくない。

なんか、まずくない?
智美は「普段のままの私」でよい、と言ってくれたが・・・・普段の私に魅力があるのか甚だ疑問である。

そんなことを考えていたら、なんとなくがっくりしてしまう。
せっかくの楽しい日なのに・・・・・。

だけど、『今更取り繕ったり、おめかししてごまかせる相手でもないでしょうよ』
智美の昨日の言葉が私の頭の中をよぎった。
確かに、今更何をしようが、いままでの私のマイナス面を彼はしっかりと見ている。
だったら、もうどうにでもなれである。

少し・・・・というか、かなり彼の私に対する気持ちは気になるところだ。
だけど、私はエスパーではないから、彼の気持ちを覗き見ることなど到底出来ない。
知りたいけど、無茶な話である。
だから、とりあえずその話は置いといて、今日を楽しむことに精一杯になろう。

私は早速出かける準備に取り掛かった。

*****

「先輩!こっちですよ!」

集合は午後1時だった。
今日も彼はとてもおしゃれで参ってしまう。
色落ちのした細身のジーンズに、黒のジャケット、紫のインナーを合わせている。
シンプルながらもよく似合っているなと感心してしまった。
一方、私といったら、黒のジャケットにアーガイルセーター、カーキのショートパンツに黒のタイツ、頑張ってパンプスを履いてみた。
私服よりジャージが多い私にとっては、ファッションも大きな試練であるのは毎度のことで、
このファッションに服装に辿り着くまでに、智美の助けを借りても1週間かかってしまった。
(しかもわざわざ購入している)
まあ、それだけ気合が入っていたりもするのだが・・・・・

まず彼が連れて行ってくれたのは、映画。
デートの王道といえばラブコメであろうが、なんと、私の見たかった海外アクションを彼がドンピシャで選んでくれていたのだった。

「うっそ!私、これ丁度見たいと思ってたんだよね~」

「だと思いました。先輩なら、こういうの、好きだと思ったんですよ」

「さすが、よくわかってくれてますね!」

「当たり前ですよ、何ヶ月バイトを共にしていると思ってるんですか」

「だよね、頼りにしてますよ」

そうやって自分のことを彼が考えていてくれたかと思うと、素直に嬉しくて、自然と顔が緩んでしまう。
映画の内容も期待通りとても面白くて、私はつい夢中になって話に入り込んでしまっていた。
一緒に歩いていて、今日は話が絶えることがほとんどない。
心なしか、阿佐君も嬉しそうにしているのが伝わってきて、私までどんどん嬉しくなってしまう。

今日のテンションはなんだか高い。
それは阿佐君が嬉しそうにしているから。

二人っきりで一緒にいられることが嬉しい。
ああ、好きだからだろうな。

彼は今、私と一緒にいて楽しんでくれているかな?
ねえ、君の目に私はどう映ってる?
私のことを・・・・どう思ってる?

*****

クリスマスのイルミネーションがきらめき、ジングルベルの歌が鳴り響く街中がだんだんと闇に包まれる。
なんとなく街の雰囲気が変わってきて。
だんだんと肌寒くなってきたと思えば、白い雪がちらちらと降り出してきて、思わず私は声を上げてしまった。

「うわあ~雪だ!」

「ほんとだ。なんだか、ロマンチックですね」

また、穏やかな笑み。
今日は彼の穏やかな笑顔をずっと独り占めしている。
なんだか、ちょっと贅沢な気分。

「でも。寒いよね・・・手袋してくればよかった」

そう、街頭の温度計には0度と表示されている。
冬本番といった寒さだった。

「確かにそうですね。早く車に戻りましょうか。」

「うん。」

「先輩。手、貸してください」

「え?」

というと、阿佐君は私の手をとった。
思わずびっくりしてしまうが、彼の手はとてもあたたかくて、私は何も反応できない。

「うっわ、冷たい!車に戻るまで暖めてあげます」

そういって、私の右手をつなぎ、彼のジャケットのポケットの中に2人の手を突っ込んだ。

これは・・・手を繋いでいる・・・んだよね?
そう意識してしまうと、嬉しいような、恥ずかしいような・・・
きっと顔が赤くなってしまっているような気がして仕方ない。

車に戻るまでの3分間、会話がなかった。
阿佐君の手は私よりも大きくて、ごつごつしていて、男らしい手で。
男にしては華奢なほうの彼にしては意外であった。
会話がない分、その感触が直に伝わってきて、どきどきしてしまう。
たった3分だったのに、その時間はとても長いように感じられてしょうがなかった。

ねえ、もしかして、君は・・・・・・?

*****

「うわあ~すごく、きれい!」

私と彼は夕食を済ませ、丘にあるの公園へ来ていた。
降り出した雪もそこまで本降りではなく、邪魔にならないほどの振りであったので、
寒さにさえ耐えられれば、ホワイトクリスマスを楽しめるものだった。

ここの公園はイルミネーションがあるわけではないが、丘の上に立っていることから景色がよい。
クリスマスを楽しんでいる恋人たちは、イルミネーションを重視してか、こちらの公園にはあまり来ていないようだった。

そういえば・・・・彼は昨日「話したいことがある」と言っていた。

「そういえば、しっかりと話したいことって何?」

と、話を振るが、

「もっと近くで街の夜景が見ながら話しましょう」

そういって、再び私の手を取り、はぐらかせてしまった。

手を取る自然なその動きに私も少し慣れてきて、びっくりすることはなくなった。
だけど、やっぱり「手を繋ぐ」って行為にはどきどきしてしまう。
それだけは変わらなかった。

さっきと一緒。
なぜか手を繋ぐと会話が途切れて、聞こえるのはお互いの呼吸だけ。
それはとても静かな世界で、とても長く彼を感じることの出来る贅沢な時間。

展望台らしきところに辿りつくと、そこには誰もいない。
まるできらきらとした宝石のような夜景に私は息を呑んだ。
阿佐君と私、そして街中のきれいな夜景。
いいものをすべて独り占めにしているような気分になった。

「なんだか、贅沢ものだなあ、私。」

思わずそんなことをつぶやいてしまう。
そうすると、阿佐君が「どうしてですか?」と尋ねてきた。
私と彼の距離は近い。
フェンスから夜景を望んでおり、その間は人一人も入らないぐらいである。
阿佐君の顔はそこまでよく見えないけど、その距離の近さに、また私は意識をしてしまう。

「・・・・いろいろ独り占めしてる」

私は夜景を見ながら、彼の質問に答えた。
彼は意を汲み取れないようで、更に「例えば?」と会話を繋げた。

「きれいな夜景、楽しい時間・・・それに阿佐君も」

最後にはよく見えない彼を笑顔で見つめながら、私は言葉を繋げた。

「先輩の笑顔は素敵です」

突然彼は話題を変えた。

「またまた、よく見えないくせに」

おどけて返事をするが、彼は態度を変えない。

「見えてますよ。ずーっと僕はその笑顔を見てたんですから」

そう言うと、彼は私との距離がどんどんと近づいてきた。

え・・・まさか・・・・。

それと同時にだんだんと胸の鼓動が高まってくる。
きっと顔が赤くなっているだろうが、周りが暗い今なら、きっとそれは分からないだろう。

ちょっと・・・・。

そして彼の顔が私の顔が近づいてきた。

「ちょ・・・・っ」

さすがの私も面食らって、声を出してしまうが、彼は止めない。

「ダメ・・・・ですか?」

いつもよりも真剣で低い声。そんな声で言われたら・・・何も言えなくなってしまう。
どんどん彼の顔は近づいてきて、ついにお互いの息がかかるぐらいの近さになって・・・。

私の唇に、暖かくて柔らかいものが触れる。

触れた瞬間、本当にどうかなってしまうんじゃないかって思った。

初めてのキス。

心臓が張り裂けてしまうぐらい、本当にどきどきしている。
鼓動が早回りしているのが聞こえてくる。

唇が離れた途端、彼は私をそっと引き寄せ、抱きしめた。
彼の胸の中に、私は顔をうずめる。

「春さん」

耳元で低い声で囁かれて、ぞくりとした。

「僕、今とてもどきどきしてます」

「・・・私も」

「春さんがどきどきしているの、感じます」

更にぎゅっと抱きしめられた。
彼の鼓動が聞こえるぐらい、強く。

「僕、春さんのことが好きです」

ふと彼の顔を見上げると、本当に穏やかなあの笑顔。
でも、私をだきしめている手は少し震えていて、彼が緊張しているのが分かる。

「春さんは、僕のこと、どう思ってますか?」

自分の気持ちを正直に話すのって苦手。
この間佐知子と話すのも、本当に勇気がいることだった。
私と彼が同じ気持ちであることが分かって、恐れることは何もないのに、なぜか怖かった。
だけど、阿佐君はしっかりと自分の気持ちをぶつけてきてくれているのに、私が逃げてしまってはやっぱり失礼だ。
だから、私は彼をぎゅっと抱きしめ返して、一言、勇気を振り絞った。

「・・・・・・好き」

「・・・・・ほんと、ですか?」

「・・・・・こんなことで嘘ついて、どーすんのよ」

「です、よね」

そういって二人はぷっと吹き出してしまった。

「春さん」

「なに?」

「大好き」

「私も」

そう答えるや否や、彼は再び私に唇を重ねて、やさしいキスをくれたのだった。

雪が降っていて、寒いはずだったのに、なぜかずーっと暖かかった。


*****

<あとがき>

いや~やっと終わりました!
いろいろ悩みながらも書き上げ、初完結です。
とにかく結ばれて私自身が一番よかったです。
ほっとした!

さて、今回は春サイドで書き上げたので、慶太朗の気持ちがいまいちつかみにくいと思いますが、
実はこれ、裏話というか、ネタバレ的な話として、慶太朗サイドでの話を書く予定です。
ザッピングシステム見たいな感じです。
この後、RE:ep(REVERSE-ep)として更新していきたいと思います。
なんとなくもやもやしている人は是非お付き合いください。

これから天然記念物春さんを慶太朗さんがどう開発していくか見ものです。
その後のお話も書いていけたら良いなあ~と思います。

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