過去の話
真穂が2年の頃、荒れてた話。
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(くそっ!)
練習試合が終わり、真穂は悪態をついた。
また負けた。
私のせいだ。
ここ数ヶ月、真穂は絶不調もいいとこだった。
ボールの感覚が前とは全然違う。
スパイクのタイミングが合わない。
ボールがジャストで手に当たらない。
思ったコースに打てない。
サーブカットのリズムも崩れたまま。
このままじゃレギュラー取られちゃう。
そんな恐怖が真穂を襲っていた。
いつからか、そんな恐怖が焦りや苛立ちに変わり、
周りの部員が気を使いだすほどに真穂の心は荒み始めていた。
試合の休憩時間。
体育館近くの部室で一人、真穂は悶々と考え込んでいた。
あれが悪い、これがダメなのかも。
次々と浮かび上がる自身へのダメ出し。
試合でのダメだったプレー。
それとは反対に、男子部のライトの人の華々しいスパイクが脳裏に浮かぶ。
あれぐらいの力が私にもあれば……
そんなことばっかり考えていたら、気持ちは落ち込むばかり。
「まーほっ!」
真穂は驚いて、思わずうわっと声を上げてしまった。
「あ…麻子か、びっくりさせんなって」
部室のドアにはキャプテン麻子の姿。
11人いる部活の中で、真穂の唯一の同期であった。
「らしくなーい。落ち込んでるの?」
麻子はいひひと笑いながら、それっぽくおどけてみせた。
普段は常識人で、人が好い麻子が、冗談でおどけてみせるのはなかなかないことだ。
と真穂は思った。
「まあ、調子わりぃからなぁ…こんな私でもヘコんだりするわけよ」
真穂はにやっとわらって、おどけてみせる。
麻子の記憶では、真穂がスランプに陥ったのは始めてで、
どんどんと落ち込んでいく同期に、彼女はとても心配していた。
入学時からずっと二人でがんばってきた。
真穂は自由奔放で、先輩にも物怖じせずに接するし、
顧問とあわや殴り合いしそうになるし、
去年は試合直前に捻挫するし、
麻子が何度フォローしたか分からない。
普通ならこんなフリーダムな人間、こちらから願い下げである。
だけど、バレーにはアツいことは分かってるから、
仲間として、麻子は真穂をずっとフォローしてきたのだ。
「肩の力ぬけ!失敗してもいいから、とにかくがむしゃらにやってみな!あれコレ考えるからそれがプレーに迷いとして出てるんだよ。」
数ヶ月後、前よりもパワーアップして、三年に進級した真穂の姿があった。
あの日の麻子の言葉で何かが吹っ切れ、スランプを克服出来たのだった。
「なあ、麻子」
真穂は唯一の同期の幸せの知らせを聞いていた。
「彼氏出来たんでしょ?どんな人?」
尋ねると、少しはにかんで答えてくれる同期の姿があった。
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<あとがきだけどむしろ解説>
前から書きたかった、真穂が荒れてた話。
麻子はほんとは大人でいいやつだったんだってことを述べておきたかったんです。
だって、本編だけじゃ、なんだか王道すぎるヒールなんだもん。
キャプテンとして、なんでも一人で頑張ってたんですよ、麻子。
真穂がもっと気遣える性格ならまだしも、ヤツもフリーダム。
ストレス溜まってしまって、彼氏に逃げちゃったんだよ。かわいそうに。
っていう話でした。
本編だけだと、真穂がアタシかわいそうな悲劇のヒロインになってしまうんでね。
そんなことはない。お前はもっと黒いのだ。